3.

 姉さんは十五歳で子どもを産んだ。父親は分からなかった。

 妊娠が発覚して、我が家は騒然となった。父さんも母さんも、どうしてどうしてと騒ぐばかりだった。僕は全然頭が回らなくて、姉さんは無事でいられるのか、とか、子どもを育てるなんて姉さんにできるんだろうかとか、何だかふわふわとした疑問だけを抱えていた。


 ただ、姉さんは泰然たいぜんとしたものだった。病院では「相手がわからないのか」「この年齢での出産はリスクが大きい」「こんな歳で産んで、その先の子育てができるのか」とさんざん言われたにも関わらず、きっちりと、かわいらしい女の子を産み、そして精一杯、死ぬ間際まぎわまで育て続けた。母さんも父さんも途中からは姉さんの出産を応援していたし、産まれてからは姉さんよりも子育てに必死になっていた。僕も姉さんを全力でサポートした。


 娘の名前は未来みくという。もう二歳になるこの子は、姉さんが居なくなったことにはさすがに気づいているような気がする。ただ、お転婆てんばだった姉さんと違って随分と大人しいこの子は、グズったり泣いたりはしなかった。今日も母さんにご飯を食べさせてもらい、そのあとは腕に抱かれて、今はスヤスヤと眠っている。


 姉さんは未来みくどころか、男の僕も目じゃないほどのお転婆てんばだった。自分がもらったおもちゃを壊すばかりか、僕のおもちゃであっても一度は自分が遊ばないと満足せず、おまけにボロボロにしてしまうことがいつもだったらしい。


 おばあちゃんが買ってきたかわいらしい人形も、遊んでいるうちに洋服をいでバラバラにしてしまったそうだ。姉さんが飽きた後で、僕がその人形の髪をかして、洋服を着せ直して綺麗きれいにしていたと聞いて、思わず笑ってしまった。そのくせ、僕が綺麗きれいに整えたおもちゃは必死になってもう一度奪うばいに来たという。


 僕が小学校に入る頃には落ち着いて、流石にそんなことをしてくることはなくなっていたが、母さんがこの話をすると、いつも姉さんはバツが悪そうにしていたように思う。

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