プロローグ ②

「それで?」

「それで、とは」


 薄暗く互いの表情が見えないその部屋で、二人の男がテーブルを挟み会話をしていた。

 二人ともきっちりと高級なスーツに身を包み、洒落たネクタイを締めている。

 彼らは、マフィアだ。


「その殺し屋共は、今どこにいるんだって聞いてんだよ」


 先に「それで?」と聞いた男────マフィアのボス、ブラッドは、自らの身体をソファの背に預ける。


「もう行き先はわかってます、ボス」


 ブラッドと相対する男────ブラッドの右腕であるマフィアの若頭、スラッピーは手元に持った資料を見ながら答え始めた。


「数々のマフィアやギャング、殺し屋……裏社会の組織を壊滅させてきた伝説の殺し屋カップル、通称〝バティスラ〟の二人は、今はとある高校ハイスクールに潜入しているとのことです。何が狙いでそこに潜入しているかまでは、掴めていませんが」


「顔は割れてんのか?」


「それが……誰も、二人の顔をはっきり見た奴はいない、と」


「そんなんだったら、どうしてそいつらが『カップル』だってのはバレてんだ」


 ブラッドのそれは、当然の疑問だ。


「奴らの正体を見た生き残りの証言だけが、手掛かりなんです」


 スラッピーは資料のページを捲りつつ答える。


「『あいつら、笑ってた。みんなを殺した後で、愛しあってキスしてた。私達の名を覚えとけ、〝コウモリバッティー&ナメクジスラッギー〟……〝バティスラ〟だ』ってね」

「そいつは?」


 どうなったんだ、と聞きたくなるのも当然だ。生き残りがいるのなら、もっと詳しいことが聞けるのではないかと。


「……それだけ言い残して、息を引き取ったそうです」

「もしかすると、わざと生き残らせたのかもな」


 ブラッドは怜悧に、その二人の思考を分析する。


「ターゲットを確実に始末するから〝伝説〟って言われてんだろ? なら中途半端に息があった奴がいたってのもヘンな話だ。自分達の存在を世間に知らしめたくて、証言した後に死ぬ程度の傷を負わせたんじゃないか……ってな」


「ンなこと、わざわざやりますかね。必然性が無い」


 スラッピーは唸る。


「いいか、これは奴らの宣戦布告だ。そういうことをわざとやってのける辺りに、余裕や自信ってモンを感じるんだよ。あくまで想像だが」


「とにかくボス、奴らの存在は俺達マフィアにとって脅威です。俺達〝グースバンプス・ファミリー〟が、やられる前にやっちまった方がいい」


「ビビってんのかよ。鳥肌グースバンプスってのは俺達にビビってる奴らの鳥肌を指すんであって、俺達が鳥肌立ててるわけじゃねェんだぜ?」


「そういうわけでは」


 ムッとしたスラッピーをブラッドはしばらく眺めていたが、やがてハハッと笑った。


「まあ、やられる前にやっちまった方がいいのは確かだ。任せるからよ、スラッピー」


「ありがとうございます」


「ちなみに、どこのハイスクールだ?」


 そう問われ、スラッピーは資料の最後のページを見ながら、


「……日本ジャパンです」


 奴らの居場所を報告した。


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