二人っきりにさせてくれ! ~殺し屋が俺達のラブコメを狙ってる~

大牟田こむた

プロローグ すこしだけ荷が重い

プロローグ ①

 ざ、ざ、ざ、と響く波の音は、夏の夕暮れに彩を添えていた。

 その心地よい音の中で、少年と少女は砂浜に腰を下ろし、愛を語らっている。


「君が僕を殺そうとする手つきは、実に鮮やかだった。愛のこもった殺意、嬉しかったよ」


 そう、〝愛〟を語らっている。

 少年────犬神いぬがみ はじめは、目の前の少女のあどけない顔つきを前に、彼女の〝愛〟を感じ取り、それに応えるかのように彼女の頬に手を添える。

 そして少女────嘉村かむら 八葉やつばはしばらくの間、添えられた手にうっとりとした眼差しを向けていた。


「私も嬉しい。……今度こそ、本当に殺してあげる」


 丸く小柄な頭を揺らし、八葉は〝愛の言葉〟を投げかける。切りそろえた黒髪に混じる緑のインナーカラーは潮風になびき、絵の具の瓶をこぼしたかのように陽射しの中に彩を添えた。


殺したい愛してるよ」

殺したい愛してるわ」


 二人はそうして、いつまでも、いつまでも語らっている。この世の全てを置き去りにして、二人だけの世界に浸っている。


 彼らは────〝殺し屋のカップル〟だ。

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