第5話:ラティフは模様替えをする
「あたしがまだお会いしたことがない愛しの旦那さまはいつおかえりになるの?」
「あたしがまだお会いしたことがない愛しの旦那さまはあたしとの結婚に不服なの?」
「あたしがまだお会いしたことがない愛しの旦那さまはあたしに不満があるから帰ってこないの?」
「家が寒いわ。火鉢はないの?」
「まあ、なんて乱雑なお家!? もしかして旦那様は整理整頓が苦手なの?」
ラティフは書物で女を知ることはあったが、ここまで矢継ぎ早に話されると何をどうしたらいいのか。わからずに黙り込んでしまった。
「……あら、ごめんなさい! あたしの言葉は拙かったかしら!? 伝わってる?」
「ご心配ありません。十分に伝わっております」
アミーナが背負っていた荷物は戸口を通らなかったので、時間をかけて分けて運んだ。それのほとんどは布支度の布だ。幼い頃から彼女が織った布が部屋に飾られていく。
「家主がいない間に布を飾るのはまずいかしら?」
「どうして気になさるんですか?」
「こんなに古い家を古い布で飾る人よ。なにか考えがあるのかもしれない。故郷のひいおばあちゃまがそういう方だった。魔法や魔術に詳しくて、並べる順序にも理由があるんですって。多分この家はそういう家だと思うの」
「……僕もここにお仕えして長いですが。旦那さまがそういうことを気にしているようには思えません」
「あなたもやけに言い切るわね……えっと。あ! そうだ。あたしったらまだお名前もうかがっていなかった。あなたがあたしの名前をご存知だから、気にせずにいたけど。お名前をうかがってもいい?」
ラティフはとっさの嘘がうまくない。
自分の筆名を名乗った。
「ズバイルです。父祖の名前を持たないので、ズバイルとだけお呼びください」
「……
アミーナは初めて来た家とは思えないほどの手際の良さで、敷物を敷き、家の隙間という隙間を布で埋めた。
「ズバイルが言ったのよ! 私の愛しい旦那様は気にしないってね。だから、怒られる時は一緒に怒られて頂戴」
ユルゲン王国の冬は白一色になる。木々ですらも埋もれて、雪原しかみえなくなる。
この家だけは彩り豊かな冬になるだろうと思った。
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