第4話:ラティフは困惑する

 ラティフは女を知らない。もちろん、親しくしたことがない。という意味だ。


 そんなラティフも知っていることはある。

 

 男も女も女から生まれることは理解している。


 ラティフの幼少期はキルクークにある。

 

 キルクークの宗教的な理由から、女は見かける機会がそんなになかった。


 話す機会もなかった。

 

 彼が世話になった商家に女でもいたならば、違ったはずだ。彼の世話人に妻はいなかった。死別したと言っていた。世話人の妻が残した子も息子ばかりで、家には男しかいなかった。

 

 家族に女がいないので、ラティフの認識は書物で読む女に限られていた。


 商人としての研鑽を終えて、色々な些事に巻き込まれ、魔術師としての力と呪いを手に入れた後も彼の認識は変わらなかった。

 

 ラティフが知る女といえば、領民達の甲高い野次や。管理された野原で花を摘む少女達位だ。それも簡単な花冠を作って、遊んでいるのを遠目でみた。


 いくらか興味をもった子どもたちはラティフをからかいに来ることもあった。


「あいつは色違いのユルゲン貴族だ。はちみつ色の肌をしている。いつもつまらなそうな顔をしている」


 そんなことを言いながら、ラティフに絡んだ子供はいる。


 少年達が男になり。少女達が女になるころ。

 

 ラティフは少年のままだった。それは子どもたちにとっては不思議で。不気味で。ラティフを遠巻きに見るようになった。

 

 自然なことだった。


 そんなラティフは困惑していた。


「奥様はおしゃべりな方でいらっしゃいますね」


 新妻のアミーナが背負った荷物はラティフの身体では到底持ち上げられないものだ。

 

 そして、戸口の広さの問題もあって玄関で荷ほどきをしながら、部屋へと逐次運んでいる最中。


 その間、新妻のアミーナは口から先にうまれたのではないか。と思うほどに饒舌だった。

 女というのはこんなに喋るものなのか。

 初めて目の当たりにする女というものにラティフは困惑していたのだ。

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妻捨て物語 智子 @tomoko_1962

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