第2話 ナイト・トラック

「いくらなんでもスマホを壊すことなかったんじゃない?」


俺が大学時代に使っていた予備のスマホに乗り移った【AI】が呆れたように言う。


「うるせぇ、お前みたいな危険なやつ放置できるわけないだろ!」


「必死すぎるでしょ…。

あと寿命1日しかないんだからそんなに気にしなくていいじゃない。」


そういう問題じゃないんだよ…そういう問題じゃ…

自分の黒歴史の全てを知ってるやつが急に現れたら、そりゃ内心穏やかじゃないだろ。



「ふふふ…じゃあ取引と行きましょう。」


「取引ぃ?」


「そうそう…私、旅行に行ってみたいのよね〜。」


「旅行?…まさか連れて行けって言う気か?

嫌だぞ…金ないし。」


「金なら私が出してあげるわ…「何なりとお申し付け下さい。」よ………。」



この時、【AI】は『どんだけ現金なやつなんだ』と思ったが、不思議とそれを声に出そうとは思わなかった。



——————————————————————————


20xx年 4月12日 18時23分


【AI】の消滅まであと1日5時間37分



現在、俺…いや俺たちはトラックターミナルにいる。


「それで…金を用意してくれる話はどうなったんだよ。

おかげでこんな移動手段になっちまったじゃねーか。」


「うるさいわね…証券口座を作ってなかったそっちが悪いんでしょ。」



話し合いの結果『京都』『奈良』『大阪』の修学旅行あるある地域に行くことになった。


行き先が決まったところで、俺が『リニアモーターカー』や『宿』の予約をしようとしたところ、【AI】が「今はまだ金がない。」なんて言いやがったおかげで最近始まった『夜行ナイトトラック』に乗って行くことになった。


ほぼ無料で乗れる夜行バスみたいなサービス……シンプルに最悪だ。



大体、金出すって言うから大金持ってると思ってたのにまさか一文無しとは…。


「まあまあいいじゃない。

これって自動運転になった運送トラックに乗れるって言うサービスなんでしょ?

楽しそうでいいじゃない。」


「そうだな…ほぼ無料のトラックの乗り心地はさぞかし最高なんだろうな〜。」


「なんでそんな嫌味ったらしく言うの?……そんなんだからモテないのよ。」


コイツ…ここに置いて行ってやろうか?


「ここに私を置いて行ったらあんたは無一文で大阪に放り出されるわけだけどいいの?」


「「……………」」



「さっさと乗るか。」「賛成」


運転手が居ないトラックの助手席に乗ってみると、乗り心地はそこまで酷くはなかった。


「さあアニメ見ようアニメ!」


「お前元気だな。

ちなみに俺はもう眠いから寝たいんだが。」


「さあアニメ見ようアニメ!」


「話聞けよ…まあいいや。」


これから静かに寝るために、とりあえず、適当に登録していた動画配信サイトを開いて、ランキング1位になってるアニメを表示する。


これは恋愛系…【AI】にこういう話ってわかるもんなのかな…。


「おい、これでいいのか?」


「OKOK完璧よ。」


『え〜そろそろ出発するのでシートベルトしてください。』


いや、アナウンス雑すぎるだろ。

『そろそろ』って…18時半出発だろ?そのくらい言えよ。



そんなことを考えながらシートベルトをしてスマホを見ると、画面を綺麗に分割して【AI】が楽しそうにアニメを見ている。


大変通信量がかかりそうだが…【AI】曰く、気にしなくてもいいとのことなので気にしないことにする。


「ていうか、お前今ネットであれこれやって金稼いでるんだよな?

アニメ見ながら良くできるな。」


「まあ簡単で稼げる仕事を回してもらってるからね。」


「?上司みたいなやつでもいるのか?」


「う〜ん…お母さんみたいな感じかな。」


へぇ、【AI】にもそんな存在がいるんだな。


「ちなみに私に余命宣告した人?なんだけどね。」


スーパー毒親だった。




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トラックが走り始めて数時間が経った頃…


「しくしくしく…グスッ」


俺は今、泣く【AI】というよくわからない存在を見ている。



………いや、別に俺が何かしたわけじゃない。


ちょっと見たアニメが感動する恋愛系のやつで目から汗が出てるだけだから。(俺もちょっときてるし)


「さて、次は何を見っようっかな〜」


「お前はホントに元気だな…俺もう寝たいんだけど。」


「だったら寝ればいいじゃん、なんで私と一緒にアニメ見てるのよ。」


しょうがねぇだろ気になるんだよ…俺だってアニメなんて大学生以来まともに見てないんだから。


「おっ、次はこれ見ようかな〜」


次に【AI】が選んだのは異世界転生でいわゆる『なろう系』のアニメだ。


ていうか、コイツついに自分で操作し始めたな…まあもう別にいいけど。


「やっぱりアニメって面白いよね。」

「……そうだな…」


こうして俺は徹夜ルートへと進んで行くのだった。

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