第14話 現実は残酷なり

 ダンジョン遠足のゴール地点に到達した後、四人には先に地上に戻って貰って、俺だけエルドラの後を追った。


 幸い、頼み事は無事完遂出来たようで、エルドラは一人の男を足止めしていた。

 男、というかまあ……この学校の教師なんだが。


 訓練授業担当の教師で、ホロ訓練の時は何故か躍起になってた奴だが、ぶっちゃけ俺、こいつの名前を知らないんだよな。


 前の世界線からこちらに来てから、学校には知ってる人物しかいなかった。

 安達や大斗は前から友達だったし、エマは幼なじみみたいなもんだ。

 萌木や千葉、一条、畠山はゲームの登場人物で、これも知っている。

 教師陣も、ほとんどが前と同じだ。


 でも、俺はこいつだけは知らない。

 前の世界線にはいなかったし、ゲームの中でも一切登場しなかった。


「お前、誰だ?」

「は? 俺は訓練担当の――」

「いや、そういう話を聞いてるんじゃない。お前、本当に教師なのか?」

「…………」


 この反応は、教師じゃないっぽいな。

 じゃあ何だ不審者か?

 どうなってんだよ……。


「お、俺は――」

「もういい、口を閉じろ」


 どうせ素直に話すわきゃない。

 だったら耳を貸すだけ無駄だ。


『消していいですか?』

「ダメだ、我慢しろ」


 正直、俺もこいつは消し去りたい。

 俺だけじゃなく、友人たちも深淵に巻き込みやがって、めちゃくちゃ頭にきてる。


 だが、こいつを消しただけですべてが上手くいくとも思えないんだよなあ。

 学校に入り込んで偽装教師やってるって時点で、どう考えてもこいつ一人の力だけじゃない。


 こいつを使って、一網打尽に出来ないかな?


「面倒だが、持って帰るぞ」

『……承知しました』


 レギオンの銃口を向けて、引き金を引く。

 念のため最小まで威力を絞った電撃系魔法パラライズが即時展開。


「アババババ!!」


 うおっ、思ったより威力高いな!


 元教師の男が、足下でピクピクしている。

 あっぶねぇ……。威力を抑えてなかったらこれ、絶対死んでたわ。


 エルドラに男を引きずらせ、地上へと戻る。


「あー、これ戻ったら絶対面倒なことになる」

『ではマスター、ここで消しますか?』


 同意してしまいたくなる。

 ただこいつの扱いは、今後の身の安全に直結する。

 面倒だからって手を抜いて友達の誰かが怪我をした、死んだなんてことになったら、泣くに泣けないからな。




          ○




 地上に戻ったら、やっぱり面倒ごとになった。

 警察が来て引き渡して、エルドラが撮影した映像も提出。

 取り調べを受けて、やっと解放されたのは、深淵クリアの三日後だった。


 いや、取り調べだけなら一日のうちに終わったんだけどな。

 ことがことだからって、警察は念のために二日間、俺を匿ってくれた。


 事件が解決するまで匿われるものかと思ったんだが、あの偽装教師が自死したことで俺はすぐに出所させられた。


 自死……って聞いたけど、絶対誰かに消されただろ。

 俺を署から出すって時、警察の人めっちゃ急いでたし。

 もしかしたら、警察署内部に実行犯がいたのかもしれない。


 そこで俺まで殺されたらヤバイから、急いで放流したんだろうな。


 しかしこの事件、闇が深そうだ。

 まさか警察署にいる似非教師を消せる組織だとは……。


「なあエルドラ。なにか探れるか?」

『……善処します』

「無理はしなくていいぞ。ただ、俺とか友達に危害が加わりそうになったら警告してくれ」

『申し訳ありません、マスター。了解しました』




          ○



「何故こうなった……」


 翌日学校に行くと、教室内では何故か俺が逮捕されたって噂が広まってた。


「逮捕されたのは俺じゃなくて、似非教師のほうだろ!」

「あー、あははは」

「おれたちは違うって言ったんだぜ? なあ?」

「うん。噂ってヒレをたくさん生やして一人歩きする生物だから……」


 ぐぬぬ。安達とか大斗が抵抗してもダメだったか。

 きっと友達を庇ってるだけってふうに思われたんだろうな。


「あっ、でも深淵攻略の話題もすごい盛り上がってたよ!」

「なんたって、学生で初めて深淵クリア。それも深度Ⅲだもんな。新記録じゃん新記録!」

「そうか。ちなみに、素材はどうなった?」

「それなんだけど……」


 安達が申し訳なさそうに口をつぐんだ。

 まさか……嘘だろ?


「学校に取り上げられたのか!?」

「えっ、あ、いや、違う違う。ダンジョンや深淵で入手した素材は、取得者のものって法的に決まってるから。破ると結構な罰則があるし、ハンターギルドからも睨まれるから誰もやらないよ」

「じゃあ、どうしたんだ?」

「オークションに出したんだけど、思ったほどの値が付かなかったんだ」


 ああ、なんだ。

 てっきり、怪しいダンジョンドロップは一度学校で預かっておきますとかなんとか、理由を付けて取り上げられたのかと思ったわ。


「それで、いくらになったんだ?」

「四千万円とちょっと……」

「よ……」

「四千万円だとっ!? ――いてっ! 何すんだよ!!」

「声がデカいぞバカ!」

「そうだよ三浦くん。さすがに今のはないよ」


 おかげで、クラス中から特異な目で見られてるだろ。

 その中に、若干下心を感じる女子の目線があるのが気になる……。


「えっ、白河くん四千万円持ってるの?」

「ああ、あの深淵クリアの素材が……」

 ひそひそ。

「へぇ……ふぅん……」

「ねえ白河くんってに見えないこともなくない?」

「うんうん、かも」

 ヒソヒソ。


 ち、畜生!

 そこまで無理しなきゃイケメンに見えないのかよッ!!

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