第15話 醜いアヒル子
「ハヤテ、なんかすまんかった……」
「まあ、いいけど。で、その金はいつ振り込まれるんだ?」
「今週末だよ」
「そうか。んじゃ、やるか?」
「やるって……」
「まさか……」
「ああ。立ち上げるぞ、クランを!」
「クラン名はどうするの?」
「悪いがそれはもう決まってる。――――っていう名前なんだが」
「う、うん、まあ、いいんじゃないかな。せ、センスは人それぞれだし……」
「くくく……は、腹いてぇ! ハヤテ、お前、ノーネームとソレといい、センス良すぎじゃんwww」
「おう大斗、表ぇ出ろ」
「やっべ、ハヤテマジ切れしてる。わ、悪かったから落ち着けハヤテ!」
「問答無用!」
「ぐああぁぁぁあ!」
こうして俺たちは、学生で初めてハンターズクランを立ち上げる。
その名は【ラグナテア】。
俺と同じように、元の世界を知る者がいるかもしれない。
この名前はそんな奴を――同志を探すための道標だ。
○
千葉レオンは、ハンターズクラン【払暁の光剣】のサブマスター千葉志士雄の息子だ。
幼い頃から父の跡継ぎとして期待されて育った。
五歳から専属の家庭教師が付き、ハンターとして強くなるために、父の跡継ぎたる男になるため、鍛え上げられた。
だが、父のような
中学生に上がる頃には、父に見切りを付けられた。
体は父のように大きく成長していたが、戦闘面の伸びが悪すぎた。
これ以上鍛えても未来がないと思われたのだろう、戦闘員としてのハンターではなく、後方支援で周りをサポートする道を、度々薦められた。
だがそのたびに、レオンは頑として抵抗した。
自分はまだ中学生だ。骨格や筋力が完成したら、きっと父のように戦えるようになる、と……。
ハンター学校に入学したのも、後方支援を進める父への反発からだった。
ここで結果を出せば、きっと父も認めてくれる。
そう、思っていた。
だが入学して半年も経たず、ただの一般人で、クラスカースト最底辺の男に、たった一撃で気絶させられてしまった。
この敗北は、レオンのプライドを粉砕した。
「オレに生きる価値は、あんのか……?」
ハイクランのサブマスターの息子として生まれ、大金をかけて最高の人材に育てられたにも拘わらず、この体たらく。
リオンには力がなく、あるのは親の威光だけ。
そんな自分が学内で、肩で風を切って歩いてたことが恥ずかしくて、学校に行けなくなってしまった。
「もう、学校やめっかな……」
父の言う通り、自分には才能がなかったのだ。
今から【払暁の光剣】に入団して、後方支援のイロハを教わるのも良いかもしれない。
未練を捨てるように、レオンは一度己の頬を張った。
「よしっ。学校やめよう」
己の将来を決めた、その時だった。
突如、自室の窓が開け放たれた。
外から入り込む風で、カーテンが広がる。
その向こう側にいる人物を見て、レオンは目を丸くする。
「テ……テメェ、白河!? な、なんでここに……」
「よお。学校のプリント届けに来たぞ」
「だったら玄関から来い! なんで窓から入ろうとしてんだよ!!」
「玄関にたどり着けなかったんだよ。門で止められて『友達です』って言ってんのに、『嘘吐くな』って門前払いされた」
「誰がテメェと友達だよ! 追い返されて当然だ、馬鹿者め!」
「ふむ。……それだけ元気があれば、すぐに登校出来そうだな」
「…………」
白河の言葉に、レオンは俯く。
「みんな心配してたぞ。元気だけが取り柄の千葉が学校に来ないから、大病を患ったかと噂になってる」
「そうか。一条と畠山は元気か?」
「さあ、よくわからん。アイツらとは距離あるから」
「それもそうだな」
何故、仲が良かった一条と畠山ではなく、白河が尋ねてきたのか?
白河が言葉に詰まった僅かな間で、レオンは察した。
俺はもう、二人に見放されたんだな……。
「白河、わざわざ来てくれて悪ぃがオレ、学校やめるわ」
「……そうか。負け逃げか」
「んな言葉ねぇよッ!! ってか負けてねぇし!!」
「いや、負けただろ。確実に」
「負けてねぇって! そもそもあれは実技訓練。戦場じゃねぇ!」
「出た。『俺はまだ本気出してない。本番だったら勝ってた』作戦! 今時、小学生でも使わねぇぞその言い訳」
「うっせぇわ! テメェ、ほんと何しに来たんだよ!?」
「プリントを持ってきたと何度言えば?」
「じゃあなんでオレを煽ってんだよッ!」
「…………楽しいから?」
「よし、表ェ出ろ。ぶっ殺してやる」
レオンはクローゼットから、鉄拳を取り出した。
それは父と同じ、拳闘士の武器だ。
それを装備し、窓から庭に飛び降りた。
「ほら、来いよ」
まだ窓にしがみついている白河を手招きする。
だが彼は首を傾げて動かない。
「なんだ、怖じ気づいたのか?」
「いや、そうじゃないが、お前の武器……鉄拳でいいのか?」
「ああ。オレはずっとコレでやってきた」
「ふむ、そうか」
白河がふわり、宙に浮かび上がる。
庭に降り立つときも、まるで羽根のように音もなく、重さも感じさせなかった。
ただそれだけで、この男の強さを感じる。
(そりゃ、負けるわな)
内心レオンは苦笑する。
だが、カッとなった手前ここで引き下がるわけにはいかない。
そもそも最近家に引きこもりっぱなしだったこともあり、かなりストレスが溜まっていた。
白河には悪いが、全力でボコらせてもらう。
(もしこの戦いで白河に勝てたら、その時は――)
「いくぞッ!!」
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