第12話 ヒール! ヒール!

 明けましておめでとうございます。

 本年もどうぞ、宜しくお願いいたします。



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「――深淵だ」

「「「「――ッ!?」」」」


 睨んだ先――空中に、強大なエネルギーが集まり、顕現した。

 飛行型悪魔――ガーゴイル。


 頭部の特殊なラインは――エビル・ガーゴイルかよ!


「エルドラ。四人を守れるか?」

『現在、深淵出現により一時的に出力がダウンしています。ステルスモード解除の許可を頂けますか?』

「許可する」


 エルドラがバレることより、みんなの命が大事だ。


「あともう一つ頼み事があるんだが――」


 洞窟が暗色で染まり、様々な場所に歪みが生じる。

 この場一体が、完全に深遠に飲まれたな。


 エビル・ガーゴイル。

 深淵Ⅲに出現する、魔法攻撃に特化した悪魔だ。


 初めての悪魔戦。

 おまけに魔法特化となれば、みんなを守りながら戦うのは難しいな。

 なんとかヘイトを稼いで範囲魔法を防がないと……。


『みなさん初めまして。ワタシはエルドラ。マスターの使い魔です』

「ご、ご丁寧にどうも?」

「ふわぁ! かわいいですね!」

「これは颯のドローン、なのか?」

「自立型AI? すごい。こんな技術、初めてみたよ」


 やんややんや。

 ここで初めての登場だったが、怖がられずに受け入れられてなにより。


「みんな気を引き締めろ。俺たちはもう深度Ⅲの深淵に入ってるんだぞ」

「深度、Ⅲ!?」

「そんな……」

「…………」


 大斗が目を剥き、エマは青ざめ唇を震わせた。

 萌木は言葉を失い固まっている。


「深度Ⅲ……。D級ハンターがパーティで挑んでクリアする深淵、だよね。そんな深淵が、どうして学校なんかに……」

「さてな」

「おいおい、マジでどうすんだよ。これじゃ俺たち、死んじゃうんじゃ……」

「滅多なことは言わないで欲しい。まだ希望を捨てるには早いのだ!」

「でも、僕たちは名ばかりF級だよ。颯は違うけど、それでも深淵は……」


 みんな、表情が暗い。

 雰囲気に抗おうとしているエマだって、体の震えを隠しきれてない。

 絶望が、パーティにのしかかる。


「みんなはエルドラに守ってもらう。だから何があっても、絶対に動くなよ?」

「颯は、どうするのだ」

「俺は――」


 ――キィン!!

 飛来した魔法を、レギオンで打ち落とす。


 これは単なる小手調べ。

 いや、舐められてる?


『ギ、ギィ。小僧、よくワシの魔法を打ち落とせたナ。驚いたゾ』

「この程度で驚く? はあ……なんだ、ただの雑魚か」

『ギギッ! 傲慢な人間め、殺してやル!』


 天井に広がる魔方陣。

 これは中級魔法か。


 即座に発砲。

 ――バリンッ!!

 魔方陣が砕け散る。


『ば、馬鹿な! ワシの魔法が壊れた――なんて驚くと思ったか阿呆め。それはブラフだ!』

『マスター、後ろです!』


 これは、隠蔽魔法か!

 瞬間、背後から白い光が溢れ俺を飲み込んだ。


『《永久氷檻エターナル・コフィン》』

「キャァァ!!」

「颯ッ!!」


 体中が完全に氷で包まれた。

 エビルがにニタニタ笑いながら四人を見下ろした。


「そんな……氷属性の、上級魔法……」

「これが、深度Ⅲの、悪魔」

「颯が……死んだ……」

「ま、まだですわ! 颯が死ぬなんて――」

『ギリギリギリ! 人間ごときが、ワシの魔法に抗えるはずなイ。この傲慢な人間は、しばし家の飾りにでもしてやろう。飽きたら砕いて捨てるがネ。クヮーッカッカッカ!』

「はや……て……」

「そんな……」

「ぐす……」


『さて、顕現したばかりで多少乾いておる。貴様ら、ワシの糧になってもらおうカ』


 エビル・ガーゴイルが牙を剥く。

 エマたちは絶望に支配され、身動きが取れない。

 そんな中、


「永遠って言葉が、ずいぶん安くなったな」


 パリッ!

 完成した永久氷檻に罅が入った。


『何ッ!? 馬鹿な、ワシの永久氷檻が、何故――』

「何故って……ショボいからだろ」


 軽く力を入れただけで、永久氷檻が完全に砕け散った。


 たったこれだけで砕けるとか、上級魔法のくせに脆すぎるだろ。


『魔法の中じゃ、時間が止まる、はずでは……』

「何も起らなかったぞ? てか、何もなさすぎて逆に焦ったくらいだ」


 まさか、あれで魔法完成とは思わなかったわ。

 まだ何か起るのかと思って身構えてたのに……。

 警戒して損したわ。


 この世界に来て初めての深淵ってことで、少しワクワクしてたんだけどなあ。

 ちょっと、がっかりだ。


 今回わかったのは、俺が強化した装備が深淵Ⅲまでなら余裕で通用するってことだ。

 命は惜しいが、せめてもう少しだけ歯ごたえが欲しい。


「エルドラ、そっちはどうだ?」

『バッチリです』

「よし、じゃあお前、もう消えていいよ」


 銃口を向け、引き金を引く。

 エビル・ガーゴイルの全身を包み込む、球体魔方陣が出現。


『――へっ?』

「じゃあな――《消突衝去ディリジョン》」


 瞬間、轟音。

 魔方陣が明滅。

 球体の中で、激しく衝突と消滅が繰り返され――そして、消えた。


 残ったのは、この世界に定着した悪魔の素材だった。


「ふぅ。みんな無事か?」

「…………ハヤテぇッ!! お前こそ無事なのか!?」

「け、怪我は、大丈夫なのか!?」

「白河くん、本当に生きてる、んだよね?」

「ちょ、ちょっと待ってみんな」

「《ヒール》! 《ヒール》!!」

「朝比奈さん落ち着いて、俺は大丈夫だから。魔力が無駄だから!」


 やんのやんの。

 みんなにくちゃくちゃにされて、ぐったりだ。


 でも、生きてることをこんなにも喜ばれるって、なんか気恥ずかしいというか……うん、正直すげぇ嬉しい。


「白河くんのことは凄いってわかってたけど、深度Ⅲの悪魔にも余裕で勝てるくらいだとは思ってもみなかったよ」

「そう、だな。私など気圧されて、動くことすら出来なかったというのに」

「白河くんは、凄いですね。私なんて腰抜けちゃいましたよ」

「ははは。見ろよ、おれなんて足がまだこうだぜ」


 大斗が大きく左右に揺れる足を見せびらかした。

 四人が同じように青い顔で笑い合う。


「絶対死んだって思ったぜ」

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