第11話 想定外の事態
皆様本年もご愛顧くださり、誠にありがとうございました。
来年もまた、宜しくお願いいたします。
どうぞ、良いお年を。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
パーティが決まった生徒から順番にダンジョンに入る。
入り口は5つあるが、どこから入っても最終的には同じ場所に到着するらしい。
俺たちの順番が来て、ダンジョンに入る。
「前衛の西園寺さんと大斗は前へ。俺は基本後衛だけど、念のため真ん中に立つ。朝比奈さんと安達は後ろから付いてきて」
「了解だ」
「へーい」
「う、うん」
「はいっ!」
ダンジョンの中は、新宿とほとんど変わらない洞窟タイプか。
壁に結構窪みがあるから、魔物が潜んでる可能性もあるな。
「エルドラ。奇襲がありそうなら教えてくれ」
『わかりました』
小声で索敵を頼む。
いくら学校のダンジョンは安全といっても、絶対じゃない。
誰かになにかあれば、寝覚めが悪いからな。
「その、白河くん」
「なんだ西園寺さん」
「ここでは魔物との戦闘中に、指令を出すのだよな?」
「そうだな」
「一秒を争う戦闘中に、長い言葉は危険ではないか?」
「うん?」
「う、そ、その……授業でも先生が言っていたのだ、普段は敬語や丁寧語を使っていても戦闘中は言葉が短い方がいいし、逆に端的に話さないことで緊急性が伝わりにくくなって結果支援が遅れることもあると! なにより知性ある悪魔との戦いでは司令塔がバレる可能性があるからすべて命令系で話すべきだと学んだのだが、やはりダンジョン訓練である以上は先生の教えに習って私たちも敬語や丁寧語を廃すべきだと思うのだが――」
脅威の早口!
エマの呼吸が心配になる。
「た、たしかに一言で指示出来るのが一番だな」
「でで、であれば……あの、私を、その、昔のように……エマ、と呼んでも、いいぞ」
「……お、おう」
小学校の時は、颯、エマって互いに呼び合ってたが、中学校くらいから疎遠になって、高校じゃあ名字呼びが定着した。
たまに間違えて名前で呼ぶと嫌がってた程だ。
なのに名前呼びOKって、思い切ったな。
それだけダンジョンは特別だってことか?
「よし、わかった。それじゃあエマも俺を颯って名前呼びしてくれ」
「――ッッ! りょりょ、了解なのだッ!」
軽く浮かび上がったエマが、手をわちゃわちゃさせて前衛に戻る。
なんかあいつすげぇ顔真っ赤にしてたけど、怒ったのか?
思い当たる節はないが…………まあ、いいや。
そこから暫く進むと、初めての魔物が出現。
「ラージアントか」
一メートルサイズのアリ。
戦闘力はゴブリンより弱い。
たしかに、このダンジョンは学生向けだな。
「エマ、大斗。二人だけで倒せるな?」
「お、おうっ!」
「大丈夫なのだ!」
二人が一気に距離を詰め、アリを袋だたきにする。
この程度なら俺が手を出す必要はない。
ってか、こんな雑魚から手出ししたら、こいつらの成長の機会を奪うだけだ。
二人の戦闘を見守りながら、周囲を警戒する。
もし反撃されて危なくなりそうだったら割って入るかって思ってたけど、無理なく倒せたな。
「二人とも、お疲れ」
「はあ、はあ……。ラージアントって、結構生命力あるじゃん」
「そうだな。思っていたより、時間がかかったのだ」
「あれでも魔物だからな。手足を吹き飛ばしたくらいじゃ死なないぞ」
実際、この前のダンジョンでも手足が吹き飛んでもなお敵意むき出しだった奴がいたからな……。
あれはマジホラーだった。
「絶対に死んだって確信するまで残心は解くなよ」
「おう、わかった」
「了解だ」
二人にアドバイスしてる間に、安達がアリから魔石を抜き出していた。
おおう……安達の手がねちょねちょになってる……。
「みんな、魔石を抜き取ったから先に進んで大丈夫だよ」
「ああ、ありがとう」
「ケースケって、グロ耐性あったんだな……」
「ううん、本当は全然ダメだよ」
安達が力なく笑う。
顔色が悪い。謙遜じゃなさそうだ。
「でも、僕はこれくらいしか出来ないから」
安達の徳が高すぎる。
人生何週目だよ。
デバイスからタオルを取り出し安達に放る。
「これを使え」
「えっ、いや、汚れるから悪いよ」
「タオルは汚れるもんだし、汚れたら洗えばいい。だから気にすんな」
「う、うん。ありがとう」
「よし。それじゃあみんな、先へ進むか」
奥へ進んでも、敵が強くなることはなく、ラージアントの出現数が増える程度だった。
二匹出たら、エマと大斗に一匹ずつ担当させる。
三匹以上出たら、二匹残して俺が倒す。
それを繰り返して、目的地に近づいた頃だった。
『マスター。良くない反応が近づいてます』
「――ッ!」
突如聞こえたエルドラの声に、心臓が大きく跳ねた。
びっくりしたぁ。
ここまで何事も起らなかったから油断してたわ。
「良くない反応ってなんだ?」
『わかりません。近くに人間が一人いるようですが』
「その人間が良くないのか?」
『人間が持っている物から、嫌な反応を感じます』
「どういうことだ?」
眉根を寄せた、その時だった。
――こつん。
俺たちの前に、小石が転がった。
次の瞬間、空間がねじれた。
「うおっ、なんだこれ?」
「め、目が回りそうです……」
「これはどうなっているのだ?」
「遠足の締めくくりで教師が用意したテスト……とか?」
「違う! みんな気を引き締めろ。出来るだけひとかたまりになって絶対に動くな!」
俺の声に、四人がこわばる。
こんなもん、教師が用意しててたまるか。
「し、白河くん、これってもしかして」
「ああ」安達に頷き、宙を睨む。「――深淵だ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
TIPS
・深淵
日本各地に突如出現する、魔界との次元融合空間。
外界とは次元層によって分け隔てられている。中は地球上のままだが、空間内部は魔界という歪な状態。
深淵は出現してから一週間経つと次元が融合し、現世に悪魔が出現する。
深淵の攻略難易度は「深度」で表わされる。
深度はⅠ~Ⅸまであり、例外としてEXがある。
深度EXは魔王種が出現する深淵を指す。
悪魔は討伐すると二度と出現しないが、魔王は討伐しても復活する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます