第10話 学内イベント
翌日の一限目。
今日の時間割には『遠足』って書かれてたはずなんだが……。
担任につれてこられたのは、ダンジョンの入り口だった。
「なんで学校の敷地内にダンジョンがあるんだよ」
「えっ、白河くん知らないで入学してきたの? この学校にはダンジョンがあるって有名なのに」
「そ、そうだったのか」
全然知らんかった。
この学校の敷地、無駄に広いと思ってたが、こんなものがあったからなんだな。
「遠足とは?」
「一応、定義からは外れてないよ」
「たしかに、そうかもしれんが」
俺のイメージとは違う。
「今日はパーティを組んで、このダンジョンを探索してもらいます。最低でも四人一組になってください」
「むっ」
二人一組じゃなくて安心したけど、俺たち三人じゃあと一人足りないな。
さて、どうしよう。
周りでは早くも、ほとんどのパーティが出来上がっている。
きっと事前に話し合ってたんだろうな。
余ってる奴は……お、いたいた。
「朝比奈さん、俺たちとパーティ組まない?」
「い、いいんですか? お願いします」
ぺこり、萌木が頭を下げる。
ふわり広がった髪の毛から、いい香りが漂ってきた。
すげぇ。美少女って姿勢も香りも、存在すべてがパーフェクトなんだな。
「それなら私もそちらに加わっていいだろうか?」
横から腕組みをしたエマが、笑顔で歩み寄ってきた。
でも、表情とは違って何故か雰囲気は少しとげとげしい気がする。
彼女の後ろで、「ああ、お姉様」とか言ってる女子がいるが、きっとあそこの女子たちとパーティを組んでダンジョンに入るつもりだったんだろう。
「西園寺さん、パーティは?」
「私が抜けても丁度四人だから問題ないぞ」
「元のパーティの人が可哀想なんだが?」
なんかハンカチ噛んで涙流してる人もいるし。
「あちらには申し訳ないが……男子三名に女子一名は見過ごせないからな」
「あー、うん、西園寺さんの危惧はわかった」
根暗で非モテで底辺な男子三人と萌木がダンジョンに潜るなんて、狼の群れに生肉を放り込むようなもんだ。
実際に何かするつもりは毛頭無い。
だが周りからどう見えるか、ってところがこの場合は重要だ。
下手すりゃ何もしてないのに『萌木が食われた』って嘘が流れて、事実として定着する。
それはさすがに萌木が可哀想だ。
「それじゃあ西園寺さん、宜しく頼む」
「ああ、宜しく頼むのだ」
思いがけず、エマと萌木が加わった。
これでパーティ結成の関門はクリアだ。
「このダンジョンの難易度ってどれくらいなんだ?」
「新宿のダンジョンよりかなり低いよ」
「それじゃ、ハヤテがいるうちはクリア余裕じゃん」
「それでも毎年怪我人が出てるみたいだから、気をつけるに超したことはないよ」
「安達の言う通りだ。いくら敵が弱くても、攻撃が追いつかないくらい出て来たら、さすがに庇いきれない」
「こ、怖いこと言うなよ……。そんな大暴走みたいなことない、よな?」
「た、たぶん。これまで学校では大暴走は起ってないはずだよ」
俺の脅しにびびる二人。
対してエマと萌木は、自分たちの装備を紹介しあってる。
「西園寺さん、その鞘かわいいですね!」
「ありがとう。私もこのデザインは結構好みなのだ。朝比奈さんの武器は杖なのだな」
「はい」
「攻撃魔法が使えるのか?」
「いえ。攻撃は出来ませんが、回復は得意です!」
「そ、それは凄いのだな……」
萌木はヒーラーで確定してる。
エマは、細剣装備だから回避型の前衛アタッカーかな。
安達は盾を持ってるが歩くだけで息が上がってる。
これは戦わせちゃアカン。戦力としてノーカンだ。
大斗は……へえ、槍か。てっきり剣種かと思ったんだけどな。
「剣って刃を立てるの難しいからよ……」
不器用か。
でもたしかに大斗らしい理由だわ。
剣って振れば斬れるってイメージだけど、本当に斬るまでには結構な技術が必要なんだよな。
「それよか大斗、体が震えてるぞ」
「むむ、武者震いだわいッ!」
「格好つけて無理すんなよ」
「お、おう。駄目ならすぐ逃げるわ」
大斗も駄目そうだな。
戦闘が難しそうなら、安達の護衛をしてもらおう。
「ところで、ハヤテはいつまで制服なんだよ。早く武具を装備しろよ」
「ん、ああ、そうだな……」
学校の校庭で武具を装備するって、学祭のコスプレみたいで抵抗があるんだよなあ。
気恥ずかしさを堪え、デバイスを操作。
あらかじめセットしておいたレギオンと、夢幻防具のショートカットをタップする。
するとインベントリから直接俺の体に武具が出現した。
この機能、着替えの必要がないからめっちゃ便利だ。
「それにしても、ハヤテの防具カッケーな」
「うんうん。他の人と全然違うよね。やっぱ、デイリーランキング1位は装備も違うんだね」
「褒めても何も出ないぞ」
「その装備、どこで買ったんだ?」
「それは秘密だ」
というか言えない。
言ったところで、ここには課金ショップなんてもんはないだろうしな。
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TIPS
・遠足
ハンター養成学校における『遠足』とは、学内ダンジョン入りを指す。
元々は『学内ダンジョン実地訓練』であったが呼び名が長いこと、そして学生のあいだで『遠足』と言われていたこともあり、この名が時間割に正式採用となった。
似た例として林間学校、修学旅行などがある。
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