第9話 クラン作るの?
ほんと、酷い目にあった……。
半分はハンターネームを登録しなかった俺のせいだけど。
「学校はどうやってランキング入りの情報を知ったんだ……」
「ハンター協会から連絡がいったのかもね。学生でランキング入りって前代未聞だし」
「ぐぬ。でも、ランキング入りをバラすことないだろ。個人情報だぞ……」
「学校も箔が欲しいからだよ。武道系の部活が全国大会に出た時なんて、横断幕が張られるらしいよ」
そう言われると、デイリーランキングも似たようなものか。
「でもそのせいで俺は、
「あはは。今度から、名前はちゃんと登録しておこうね」
「今日すぐギルドに行って登録するわ……」
今更『白河颯』って名前を登録するのも恥ずかしいが、まあ、ノーネームよかマシだな。
「そういえば今日、千葉の姿が見えなかったな」
「あー。風邪でも引いたんじゃないか?」
「あいつがそんなタマかよ。おれだって風邪ひかねぇのに」
確かに大斗、風邪ひかねぇな。すげぇ説得力。
でも千葉と自分を(おバカ枠)同列に扱うのは失礼じゃないか?
「確かに、ちょっと気になるよね」
「ハヤテがやり過ぎたんじゃないか」
「俺かよ」
「ハヤテ以外に誰がいるんだよ」
「たとえば……ほら、失恋したとか」
「あれを振る女子がいるか?」
「……いないな」
イケメン+父がハイクラン所属+金持ち=モテモテ
こんなハイスペック物件を振れる女子がいたら見てみたい。
「千葉くんなら振られても、すぐに次の彼女が出来るんじゃないかな?」
「滅べばいいのに」
「大斗に同意」
「あはは」
「まあ、千葉なら大丈夫だろ。黙ってすっこんでめそめそするタイプには見えん」
「たしかにな」
「そうだね」
「ところでさ、白河くんはクランを作るの?」
「ん? あー、考えてなかったな」
ゲームだと自分のクランを作って活動してたが……。
「クランの立ち上げには何が必要なんだ?」
「ざっくり上げると、申請書と口座」
「た、大変そうだな」
「あと資本金だね」
「いくらくらい必要なんだ?」
「最低でも100万円だね」
土日でモンスターをジェノサイドした魔石の売却額が五百万だったから、十分足りてるな。
「他には何かあるか?」
「うーん、実績があれば基本的に申請可能だよ。たとえばデイリーランキング一位になったとか」
「おっ、ハヤテはクリアしてるじゃん」
「そうだけど、んー。立ち上げって大変そうだからパスかな」
「ええーッ! 白河くんくらい強い人は、クラン立ち上げたほうがいいよ!」
「だって、書類とか口座とか、まったくわからんもん。面倒だし」
「おいおい、安達の言う通りだぞハヤテ、クラン立ち上げろよ。学生でクラン立ち上げとか、めっちゃ目立つじゃん!」
「お前は目立った俺のおこぼれに預かって彼女が欲しいだけだろ」
「チッ、ばれたか」
バレバレだわ。
「既存クランに入った方が、面倒が少なくていいかなあ」
「既存クランだと、運営方針に縛られて自由に狩りに参加出来ないよ。特に新入りは雑用みたいなことをずっとさせられるって聞くし」
「そうなのか」
「うん。せっかく能力が高いのに、それが発揮出来なかったらもったいないよ!」
「そうかもしれんが……」
「書類とか口座作りとか、面倒なことは全部僕がやる。それならどう?」
「えっ、う、うーん。たしかにそれなら」
「やった!」
安達がぴょこんと跳ねて拳を握る。
「なあ、どうしてそこまでクラン立ち上げに拘るんだ?」
「白河くんくらい強い人が、普通のクランに使い潰されるのがもったいないからだよ」
「それはさっきも聞いた。でも安達が力を貸す理由にはならんだろ」
「あー、僕ってほら、運動神経鈍いでしょ。たぶん、このまま頑張ってもまともなハンターにはなれないと思うんだ。だったら、自分が〝この人は!〟って思う人をサポート出来る職に就きたいなって。幸い、デスクワークは苦手じゃないみたいだから」
「なるほど……」
苦手じゃないってレベルじゃないが。
入試テストでは学年一位。物覚えも恐ろしく良い。
たしかに、安達はハンターよりも事務が向いてる。
まだ一年生なのに、きちんと将来を考えてるんだなあ。
それに比べて、俺と大斗ときたら……。
「お、なんだハヤテ。もしかして俺をクランに誘いたいのか? わかったわかった、サブマスターでいいぞ!」
俺は……これと一緒か……。
「えっ、なに? なんで哀れむ目をしてんの?」
「いや、安達はすごいなって思って」
「お、おう?」
俺もきちんと、将来を考えないと……。
将来、か。
なりたいものは、さっぱり浮かばん。
けど、やりたいことはすぐに浮かんだ。
「――ハイクラン」
「えっ?」
「おん?」
「せっかくだから、ハイクランを目指そう」
「す、すごい目標だね。たしかに白河くんの能力なら、目指せるかもしれないけど……」
「高校生のハイクラン! カッケー!」
「深淵を攻略して、深度Ⅹの魔王を倒す」
そして、行けるところまで行く。
提供されたコンテンツを、すべて食らい尽くすのがゲーマーだ。
俺はこの世界を、隅々まで楽しみ尽くす!
「魔王……」
「いいじゃんいいじゃん! おれは乗ったぞ!!」
「み、三浦くん、魔王だよ!? 並のハンターじゃ太刀打ち出来ないんだよ? それどころか日本中のハイクランが集まっても、大きな被害が出る相手だよ。そもそも、魔王はまだ世界中で一体しか倒されたことがないし……」
「おいおいケースケ、こいつがそんじょそこらのハンターに見えるか?」
「それは……違うかも、だけど……」
魔王と聞いてから、安達の顔が青い。
無理もない。あいつらは規格外だからな。
深淵が出現してから、人類が滅亡の危機に瀕したのは魔王のせいだ。
だが、逆境をはね除けて人類が大発展出来たのも、魔王のおかげだ。
いま自由に電気が使えているのは、人類が倒した魔王の核があるからだし、強力な武具が開発出来ているのも、また魔王の素材のおかげだ。
魔王の体は人類にとって、最上級のマジックアイテムだ。
規格外の存在だからこそ、倒した時は規格外の報酬に化ける。
実にハンターらしい相手じゃないか。
「おれには見える、見えるぞっ! コイツが魔王を倒してハイクランにのし上がる未来が!」
たぶん大斗は何も考えてないな。
あるいはハイクランの名声で女子をひっかけたいだけかもしれん。
「安達。お前が戦うわけじゃないんだぞ」
「そ、そうだけど……」
「戦闘は俺に任せておけ。お前はクランハウスの椅子にどかっと座ってふんぞり返っていればいいんだ」
「う、うん……」
「じゃあ俺はサブマスターな!」
「それはない」
「なんでだよ!?」
お前、あんまり戦闘得意じゃないだろ。
「大斗はヒラで頑張れ」
「そんなぁ……」
安達の説得に押されて、クランを立ち上げることになったが……悪くない。
実際、クランに所属しないと深淵浄化の依頼を受けられない。
深淵での戦闘を望むなら、いずれ俺はクランに入らなきゃいけなかった。
でもクランに入ったからって、すぐに深淵戦に挑めるわけじゃないし、そのクランがまともである保証もないからな。
だったら最初から、自由に行動出来る自前のクランをこさえたほうがいい。
そこから俺たちは、クラン名やらメンバー募集やら、サブマスターをどうするかとか、やんややんや話ながら寮へと戻っていった。
書類や口座は安達がなんとかしてくれる。
実績とお金は既にある。
あとはクラン名だけか……。
とりあえず、立ち上げはクラン名が決まるまで一旦保留だな。
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TIPS
・魔王
魔界における最強格の悪魔を指す。
魔王は十体おり、それぞれのコミュニティ(人間界でいうところの国)を構築している。
過去に人間界に現われた1体は今、素材となって人間の暮らしを支えている。
今後魔王が現われ、素材を入手した時、人類の暮らしはより大きな飛躍を遂げるだろう。
反面、これまででは考えられない被害を被る可能性もある。
ハヤテメモ:魔王を倒すと国の技術レベルが上がって、より性能のいい武具が作れるようになるぞ!
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