第2話 同族殺し
しばらく途方に暮れていたが、ずっとこうしていても仕方ない。折角生まれ変わったんだしな。
考えてみれば化け物も悪くない。元々俺は社会に馴染めずにこぼれ落ちていたんだ、もう一度社会に戻れると言われても嬉しくはない。
しかしスケルトンか。これって異世界転生ってやつなのかな?まさか令和の時代にスケルトンとして再生させる技術が出来ましたって事もないだろう。
周囲に散らばる死体は金属や皮の装備を身に着けているし、剣や槍で戦っていたようだ。矢も転がっているので、銃が利用されていない古代~中世辺りの文化に見える。
この世界に生まれた俺が何をするか?何も分からない今だからこそ、二つの誓いを立てよう。
一つ、悪であろう。正義も嫌いじゃないが、前世最後の思いだったからな。何よりただ善良であろうとするのが最悪だ。絶対にそうはならないぞ。
二つ、躊躇わずに生きていこう。失敗してもいい、危険な道を選んでいく。
今はこれだけでいい。さあ動き出そう、新しい生の始まりだ。
「……こいつらは動かないのか?」
近くに立つスケルトンへ恐る恐る近づいてみるが何の反応もない。その姿はどこか人形のようで、冷たく無機質だった。俺とは違うのか?何かを待っている?魂を感じない空虚な器だ。まぁ死んでるんだが。
「悪いな、ちょっと借りるぞ」
死体の握る剣を拾い上げ、骨だけで扱いにくい剣を両手で握って目の前のスケルトンの頭部めがけて振り下ろした。
ガキンッ!
骨と金属がぶつかる硬い音が響く。頭蓋骨は脆く割れ、砕け散った破片が地面に散乱する。残された身体は支えを失ったかのようにゆっくりと崩れ落ちた。
その瞬間――。スケルトンの体から何かが溢れてくる。光?いや何かモヤのような粒が、砕けたスケルトンの骨の隙間から舞い上がり、俺の骨の隙間に吸い込まれていく。
「強化されたのか?」
自身の骨が少しだけ強く、重くなった気がした。握った剣もさっきよりしっかりと持てる。
「これはいい。謝罪はしない、俺の力になれ」
周囲を見回すと、まだ何体ものスケルトンが静かに立ち上がっていた。
手に入れた微かな力と共に小さな決意が胸に灯る。
強くなろう。いや、強くあろう。それが俺の生きる意味だ。
スケルトン達を一つ残らず破壊する。こいつらは俺と同族、動かないのは俺が同族だからか?俺を味方だと思ってる奴等を殺して回る様は、間違いなく悪だな。
倒したスケルトンたちの破片が周囲に散らばっていた。空気はひどく冷たく、ただ静寂だけがそこにあった。自らの骨の手を見つめると、微かな震えが指先に伝わる。
突然――。
「……何だ、この感覚は……?」
足元から奇妙な黒い霧が沸き上がった。霧は全身を包み込むように広がり、その中に閉じ込められた。骨の隙間を通して熱く鋭い何かが流れ込むような感覚に襲われる。それは痛みではなかったが、明確な変化の兆しだった。
「力が……溢れてくる!」
スケルトンたちを倒した際に溢れ出したエネルギーが一点に集中し始める。霧は渦を巻き、骨に触れるたびに、俺の体を徐々に変えていった。
まず骨そのものが光を帯びた。鈍い灰色だった骨が、黒曜石のように黒光りし始める。太く、硬く、転がるスケルトンたちの残骸とは明確に異なる強靭な骨。
目の空洞、何もなかったはずの場所に熱を感じる。剣身に自分を映すと、そこにはぽっと小さな火種のような青い光が生まれていた。それはゆっくりと燃え広がり、目玉の代わりに怪しく輝く光となる。
「……これは、進化……?」
関節は軋むような音を立てながら強化され、体全体がしなやかに動けるようになる感覚が伝わった。骨の手を握りしめると、その力の増大が明確に分かった。新たな力が身体の隅々にまで行き渡る。次の瞬間、頭の中に知識の断片が流れ込む。
「 剣術、槍、弓、石、体捌き、体の使い方が染み込んでくる」
手にした長剣を上段に構え、大きく踏み込んで最速の切り落とし。地面を打つ直前でビタリと止めた。
力が余っている。もっと、もっと大きな武器がほしい。
霧が晴れると、周囲にはかつてのスケルトンたちの痕跡は何も残っていなかった。俺だけだ、俺が俺の為に同族を皆殺しにしたんだ。
お前たちにしてやれる事はない。ただ、俺が全てを継いでやろう。
骨だけの拳を握りしめ、進化した体で新たな力を試すため、俺は一歩を踏み出した。
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