「ソフト」か「ハード」か。それが問題だ。

 メタバースとは大雑把に言えば「仮想空間」だ。そこで生産することは可能なのだろうか?


 単純に考えると、不可能に思える。だって、「仮想」だからね。電子の世界で物質は生まれない。


 一方で、「ソフトウェア」なら問題はない。電脳空間でいくらでも創り出せる。


 ・コンピュータ・プログラム

 ・設計図、電子回路図

 ・CG、デジタル画像

 ・動画

 ・音楽、音声

 ・文章

 ・調理レシピ

 ・暗号資産

  等々。


 それこそ、いくらでも実例を挙げられる。芸術の世界でも多くの作品がリアルな手作業からデジタルな製作方法に世の中の潮流が変化してきている。


 漫画や音楽、文筆業など多くのジャンルで、いまやPCやタブレット、スマホなどを利用したデジタル環境での創作が主流となりつつある。もちろん、「自分はアナログ手法の方が好きだ。デジタルは味気ない」という人もいる。個人の嗜好を否定するつもりはない。


 しかし、時代は変わる。羽ペンで文字を書く人は少ないし、駕籠で移動する人はもういない。


 大事なことは、「ソフトの世界ではデジタルメディアがアナログメディアを代替可能だ」という事実である。好みではないとしても「代わり」にはなれる。


 問題はハードウェアだ。


 電脳世界でいくら頑張っても自動車は作れないし、家を建てることはできない。ならば、メタバースで「生産」ができるとは言えないのではないか?


 だが、ちょっと待て。本当にできないか?


 世の中には「ファブレス生産」という事業形態がある。企画、開発、設計までを自社で行い、製造は外部会社に委託するという事業モデルだ。

 協力先を募り(マッチング)、使用・価格・納期などの条件を決め(コミュニケーション)、注文・納品・検収を行い(トランザクション)、請求・支払い決済を完結させる(インボイシング、ファイナンス)などの行為は仮想空間内で完結できる。


「リアル」に頼らなければいけない部分は成果物検収周りの限られた行為に留まる。さらに言えばそれすらも外部会社に代行させることが可能だ。


 今現在の社会ではそれが主流とまでは言えないが、「やろうと思えば」PC1台で製造事業を開始することが可能なのだ。


 そして、世の中には特殊技術、専用設備を持った個人や企業が山ほどいる。そういう人たちが必要に応じてつながることができる「環境」さえあれば、ビジネスは自在に展開できるのだ。


 たとえば、回路図設計ソフトで電子基板を設計し、そのデータをメール送信すればその通りの電子基板をプリントしてくれるばかりか、必要な電子部品を基板上に実装してくれる会社がネット上に存在する。


 CADで設計した三次元データを送れば、その通りの寸法形状で部品を加工してくれる金属加工業者もいる。プラスチックでよければ3Dプリンティングを代行してくれる業者がいるし、CADデータから樹脂成型や金属プレス用の金型を起こしてくれる業者もある。


 動画配信サービスは個人をTV局に変えた。それと同じことが製造を含むすべての社会機能について起こりうるのだ。

 スマホを持つすべての個人がメルアドを持っているように、「すべての個人、企業がメタバース上にアバターを持っている」という状況はいつ実現してもおかしくない。


 人事、総務、経理、購買、営業、宣伝、広報、知財管理、法務、コンプライアンスなどいわゆるバックオフィス業務はそれを専門とする外部機能に外注した方が本来合理的であり、高品質の成果を期待できる。

 実際に世の中はそういう方向に動いてきた。アウトソーシングは国境を越えて進むだろう。


 ハードウエアの生産も、ソフト同様アウトソーシング化が一般的になる。


 20世紀は大企業の時代だったと言えるが、21世紀は再び個人の時代が来るだろう。一般化・標準化の時代に対して、特殊化・専門化の時代が来る。


 その「環境」を、ザッカーバーグはメタバースという形で提供しようとしているのではないか? ARグラスなどはそれを可能とする1つのツールに過ぎない。


 わたしはそう考えている。

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