半妹三昧

園業公起

第1話 妹が増えちゃった日

 好きな人と初めて同じクラスになれた。小中高ずっと一緒だったけど、クラスだけはいつも違っていた。委員会やイベントでたまに会話できればそれだけで楽しかったし嬉しかったけど。こうして同じクラスになれたのだ。夢を見てもいいんじゃないだろうか?


「お兄ちゃん。また阿久津さん見てるの?バカなことは考えない方が良いよ」


 僕の机の上に胡坐をかいて座っている女の子がいる。双子の妹の路美和ロミナだ。明るい茶髪をツーサイドアップにしている。ついでに大手のアイドルグループに所属している自慢の妹だ。


「どう考えても釣り合ってないよね。向こうは美人で勉強もできて品行方正でお嬢様だよ」


「はぁ?俺だって美形で勉強もできて運動もできるし持ち家だってあるイケメンだよ?」


「自分で美形とか言うな。いや。てかその持ち家あたしも住んでるんだけど」


「安心しろ。俺が誰かと結婚してもお前は置いておいてやるよ」


「むしろお兄ちゃんの方が誰とも結婚できずにぼっち死しそうだけどね。まあそのときでもあたしがお兄ちゃんを介護してあげる。あたし優しい」


 妹に介護されるなんて御免である。まあそれはともかく。やっとだ。やっとスタート地点に建てた。阿久津麗羽うるは。芸能科もあるこの学園で四大美少女と呼ばれる高嶺の花。だけど俺だって今まで自分を磨き上げてきたのだ。必ず落してみせる。ニチャアア!








 はい。特に接点もなく放課後になりました。


「絶対に今日ね。視線何回か合ったんだよ!間違いないって!向こうも俺のこと意識してるから!」


「はいはい。バカ言ってないで早くご飯作ってよ」


 リビングで短パンのタンクトップのラフな格好のロミナが俺のことを軽くあしらっていた。正直に言って目のやり場に困る。双子の兄妹とは言えども異性同士だ。タンクトップの隙間から見えるブラとか短パンの隙間から見えるパンツとか。結構きつい。


「つーかお前も手伝えよ」


「あたしが作ってもお兄ちゃんよりも美味しいもの出来ないもん。適材適所だよ」


「適材適所はさぼる言い訳じゃねぇんだよ。まあいいけど」


 その日もいつも通りだった。いつも通り妹とくだらないじゃれ合いをして夜を過ごして眠りにつくだけ。そう思っていたんだ。






ぴんぽーん。










 訪問のベルが鳴った。


「ん?こんな時間に珍しいな。お前友達とか呼んだ?」


「ううん。お兄ちゃんは?」


「いや。俺も呼んでないよ」


 俺は火を止めて、訪問カメラを覗き込む。そこにはうちの学園の制服を着た女の子が立っていた。俯いているので顔は良く見えない。


「うちの学校の生徒だ。女の子だからお前の友達っぽいんだけど」


「ええ?誰も呼んでないんだけどなぁ」


 ロミナはスマホをソファーに置いて玄関に向かった。そして。


「ふぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「な、なに?!なにあ?!」


 ロミナの叫び声が聞こえた。俺は慌てて玄関に行く。そしてそこで俺もまた叫ぶ。


「ほぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「煩いんだけど…近所迷惑だし恥ずかしいわ。中は言ってもいい?」


 玄関先にいた女子生徒は俺たちの家の中に入ってきて玄関のドアを閉じた。なぜかトランクを引いている。


「あ、あの阿久津さん、阿久津麗羽さんですよね?どうしてあたしのうちに?」


 衝撃から回復したロミナが阿久津さんに話しかける。


「ここはあなたの家ではないでしょう。家と土地の名義はお兄さんの名前になっているはずよ。まあそれはどうでもいいわよね」


 阿久津さんは靴を脱いで廊下に上がってきた。


「雑巾ない?トランクのタイヤが汚いから拭きたいのだけど」


「ちょ、ちょっと!ちょっと待って!なんでトランクとか持ってるの?!意味わかんないんだけど!」


「事情は後で説明するわ。早く雑巾頂戴」


 俺は一旦雑巾をとってきて阿久津さんに渡す。彼女はトランクのタイヤを綺麗に拭いた後、それを廊下に持ち上げて転がす。


「こっちがリビングでいいかしら?」


「だから待ってよ!あなたいい加減にして!」


 ロミナが止めようとするが阿久津さんは我関せずのままリビングに入って行く。そしてソファーを見つけたそこにぐでぇっと座った。


「いい匂いね。ちょうどお腹も減っていたの。いいタイミングだったみたいね」


「なにかんがえてんのよ!あんた?!」


 ロミナがバチバチに切れてる。それ俺も半分くらいこの傍若無人ぷりにイラついてはいる。だけど同時に好きな人が突然訪問したことに興奮もしていた。まるでエロゲとかの導入みたいじゃないか!胸がドキドキするよ!


「てかそのトランク。まさかあんたうちに泊まる気?!」


「泊まる?いいえ違うわ。今日からここに住まわせてもらうことにしたの」


 エロゲキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!俺は内心ではガッツポーズやらグッジョブやらしていた。


「何言ってるの?!ここはあたしとお兄ちゃんの家なの!あたしたち家族の家!泊めるだけならともかく住むなんて冗談じゃないわ!」


「そうね。あなたのいう通り。赤の他人同士が。特に私たちみたいな高校生くらいの男女が一緒に住むなんて漫画やアニメだけでしょうね。そう他人ならば…」


 そう言って阿久津さんはソファーから立ち上がり、スカートのポケットから一通の封筒を取り出す。それを俺に渡してきた。


「読んで頂戴」


「う、うん。なになに…DNA鑑定…え?異母きょうだい…?」


 そこには鑑定対象の二人が生物学的に異母きょうだいであるということを証明する書類だった。ずきっと胸に嫌な痛みが走る。この痛みはずっと昔にも同じものを味わったことがあった。


「阿久津さん。これ。だれとだれの鑑定なの?」


「もちろん。あなたとわたしよ。わたしはあなたの異母妹なのよ」


 それを聞いて視界が揺らぐ。ショックで体が震えてきた。


「色々あって家から出てきたの。だからこれからよろしくね。お兄ちゃん」


 こうして俺にもう一人の妹が出来たのだった。


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