@ashitahaiihiday0

第1話

 俺はSFが好きではない。というか、SFで騒いでいる人間があまり好きではない。うるさいんだ、いちいち。普通の地球で普通に生きて普通に公務員になって働くこと。そんなことを目指している俺には全く関係ない。今日も雨。父に車で高校に送ってもらうことが増えた。父の車の中では『ゲット・アップ・ルーシー』が流れている。この一曲が流れ終わるくらいで学校についてしまう。もう少し聞きたいのにな。「行って来い。」強面の父が言う。「ありがとう、仕事頑張って。」今日も着いてしまった。

 そういえば今月は図書委員の仕事があったなと思い出した。可も不可もなくってところだな。じゃんけんで負けて図書委員になってしまっただけで、思い入れは全く無い。「黒街せんぱーい!!!」うわ、見つかってはいけない奴に見つかった。できればスルーしたいと心のなかで何度も思った。今大声で俺の名字を叫んだのは1個下の桜戸尊。こいつがすごくやかましい。SF大好きだし、俺にずっと引っ付いてくるし、図書委員の仕事遅い。こいつが社会に出たときが心配になってくる。「おはよう。朝から元気だな。」「もちろんです!今日数学の小テストがあるんですが、勉強したところが全然違うらしいんですよね!」ほら。こういうところだ。しっかり確認すれば済む話を確認せずに行うからだ。

「早く教室に行って友達に教えてもらえ。下駄箱にいると人の邪魔にもなるし。」「ですね、、。今日黒街先輩と図書委員の仕事同じなんです。」そんなこと言われなくても知っている。嫌でも覚えてしまうからだ。「そうだな。今日はしっかり仕事してくれ。」「任せてください!」それに任せられたらどれだけ仕事は楽になるのか。

 やかましいやつと解散したところで、俺はワイヤレスイヤホンを取り出す。今朝の『ゲット・アップ・ルーシー』をもう一度聴き直す。これは毎朝のルーティンになっている。夏のジメジメを感じながら長い階段を登る。想像するだけでも息が詰まるような空気だろう。あと10段ほど階段を登れば3階に着く。階段を登り終えたタイミングで、エレベーターから出てきた家庭科の先生と目が合う。「あ、おはようございます。」「おはよー。」なにエレベーター使ってんだよ、と少し切れそうになる自分を抑えながら教室に入る。そこからはもういつも通りのつまらない生活が始まる。

 気付けば授業も終わって今週の掃除当番が発表された。「よっしゃ俺じゃない!」「私の班じゃん〜」「一緒にやろうぜ」いろんな声が聞こえる。なんでそんなに一喜一憂できるのか。「お前、今日掃除じゃないんだな。」「おう、そうだな。」同じ掃除当番の小柳有。いちいち話しかけるな。「今日一緒に帰るか?」「ごめん、申し訳ないけど今日は図書委員の仕事があるんだ。」「そっか。また今度な。」俺はこいつと帰るような人間になることを、昔は憧れていたのかもしれない。

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