第2話

 夕ご飯とお風呂を済ませて、私はノートパソコンを広げる。改めて、アンロドのアニメ化について情報を探した。

 アンロドは私の青春。って言うのは大袈裟かもしれないけど。そのくらい思い入れが強いゲームだった。

 

 プラットフォームはPS4。ジャンルはアクションRPG。

 グラフィックは最高に良かったけど、そのせいか処理落ちが頻繁に起きて、ボス戦では何度も泣かされた。BGMも悪くて、不協和音と音バグの嵐。各ダンジョンは迷宮すぎて脱出までに二時間はザラ。挙句の果てには、ゲーム中に魔法の説明が一切ないという謎仕様。


 でも、ストーリーが神すぎたんだよなぁ。だから、アニメ化・漫画化しろって声はやたら多かった。ストーリーがいいからこそ、ゲームのな部分も含めて全部愛せたんだよね。

 懐かしい。


「そういえば」


 私は、埃がかぶったままのPS4を見る。

 声優の「天叢雲 剣」という名前に、私は見覚えがあった。 というルビがふってあったけど、あれの本来の読み方は、。昔、アンロドを一緒にやってた友達から教えてもらった。


 昔、アンロドを一緒にプレイしていたフレンドの名前こそ「天叢雲剣あまのむらくものつるぎ」、男の子だった。当時VCボイスチャットを繋いで、時間も忘れて、受験生だっていうのに勉強を後回しにしてまで、アンロドをやり込んだ。お互いに会ったことはないけど、親友以上の関係だったと思う。


 PS4を起動させる。フレンドリストを見るけれど、リストからは彼のIDが消えている。

 そりゃそうだよね。彼とは酷い別れ方をしたから。十年前の時点で、フレンドリストから消えたことは確認してた。残ってないかなって期待したけど、あるはずないよね。


 そういえば、私がマルティンを好きになったのは、天叢雲剣あまのむらくものつるぎ……つるぎ君を好きになったことが理由だった。

 十年前、つるぎ君は序盤のボスがなかなか倒せなくて、Twitterで仲間を探してた。魔法がなアンロド。その魔法を完璧に使いこなしてた私は界隈内で有名だったから、フォロワー経由で知り合った。

 序盤のボスを倒した後も、つるぎ君と一緒にずっとプレイしてたなぁ。ラスボスも裏ボスも、つるぎ君と一緒に何時間もかけて攻略した。


 あの時の彼がマルティンの声を?

 まさかね。


 私は、パソコンから聞こえるPVの音声に耳を傾ける。


『勇気を出して行動すれば、どうにかなるものさ』


 アニメ版のマルティンの声。やっぱりつるぎ君の声に似ている気がする。

 いや、同じ。間違いない。あれだけ毎日のように聞いていたつるぎ君の声を、聞き間違えるはずがない。

 マルティン役の声優は、絶対につるぎ君だ。間違いない。


 でも、何で?

 私とつるぎ君の別れは散々だったから、私とやり込んだアンロドなんて嫌な思い出なんじゃないの?

 私はPS4の電源を切って、テレビ台の奥にしまい込んだ。


︎︎⟡

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雪が解けるかの如く LeeArgent @LeeArgent

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