雪が解けるかの如く

LeeArgent

第1話

 片道一時間の通勤。私は今日も、電車に揺られて家に帰る。

 暗くなった街にちらつく雪、後ろに流れていく明かりを横目で見ながら、私は手すりを掴んで立っていた。

 夜十時。なかなかハードな残業だった。デスクワークとはいえ体は疲れてる。今朝お団子にまとめた髪は崩れてしまっているし、スーツのスカートは座りジワができてしまっていた。そんな状態で電車に揺られていると、頭がふわふわとしてきて寝てしまいそうになる。

 座席を見る。空きはない。仕方ないから、眠気覚ましのため、スマホを取り出してTwitterを開く。

 タイムライン上のフォロワー達は、今期のアニメを喜んだり、嘆いたり。とても楽しそうにアニメを語っている投稿がキラキラして見えて、ちょっと羨ましい。

 

 私、桃井ももい咲美えみは、十年くらい前はゲームオタクだった。とあるゲームに沼ってしまって、四六時中ゲーム攻略の研究をしたり、フレンドと一緒に何時間もプレイしたりした。高校受験が控えてる中で沼ったものだから、当時は親にこっぴどく怒られた。

 今の私は日々の仕事に追われて、攻略研究どころかゲームの起動すらできていない。アニメだってろくに追っかけてない。


 そんな時間がない、といえば違うけど、気力は足りないわけで……


「あれ?」


 Twitterのタイムラインに、ゲーム情報アカウントの投稿が表示された。とあるニュース記事のリンクだった。


「アンシャント・ロード……アニメ化?!」


 電車の中ということを忘れ、私は大声をあげてしまった。周りの視線が一斉に私を向く。


「あっ……」


 恥ずかしくて顔が熱い。うつむいて顔を隠したけど、多分耳や首筋まで真っ赤になってるだろうと思う、多分。

 でも、びっくりした。あのゲームがアニメ化するなんて。


 アンシャント・ロード、略してアンロド。それが、私が十年前に沼ったゲームのタイトル。発売直後からって言われ続けたゲームが今更アニメ化するなんて、思ってもみなかった。いや、嬉しいけど!


 私はリンク先のニュースを見る。大した情報は載ってない。来年春にアニメ化することと、アンロドがどういうゲームなのかっていう情報だけ。

 私は「アンシャントロード アニメ」と検索。一番上に公式サイトが出てきた。タップする。


 ああ、懐かしい。

 六人のキャラクター達はどれも個性的で、見た目も中身もとても魅力的。

 私がいつも操作していた女性キャラのフローラは、魔法学校の落ちこぼれという背景と、詠唱短縮という固有スキルとのギャップがとても好きだった。

 だけど、一番好きなキャラは、異国からの旅人という設定のマルティン。魔王を倒しに行くという目標を掲げながらも、魔王の血を引いていることを知って苦悩する男性キャラ。

 マルティンは、昔、フレンドが使っていたキャラクターだった。


 キャラの立ち絵の下には、声優の名前が書かれている。フローラの声は、さないみか。ぴったりだ。

 マルティンの声は……天叢雲あまくも つるぎ。期待の新人と書かれている。


 あれ? この名前って……


『次は、広、広、お出口は左側です』


 アナウンスが聞こえた。私は慌てて顔を上げる。すっかりぼーっとしてた。

 疑問は後回しにして、私は慌てて電車を降りた。


︎︎⟡

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