祭りのあと #7
人通りのある場所から少し離れたスカイデッキにあるベンチに、並んで腰かける2人の様子を、野崎と宇佐美は隠れてそっと伺った。
周囲は割と静かなので、話し声も聞こえてくる。
白石と相手の男は険悪なムードではなく、軽い雑談をするような感じで話していた。
時折笑い声も聞こえてくる。
「クリスマスはどうしてた?」
「仕事だよ。だって、1人だもん」
不貞腐れた様に言う白石に、相手の男が笑う。
「そっちは?」
「俺も仕事だよ」
「なんで?彼女と過ごさなかったの?」
「お互い忙しいし」
相手がそう言って白石を見る。
その様子を見ていた宇佐美が、ふと気づいたように呟いた。
「相手の人……雰囲気が野崎さんに似てますね」
「え?……そうか?」
「体形とか、見た目も」
「――」
しばらく無言のまま、ベンチに座っていた2人だったが、これ以上話すのも時間の無駄だと思った白石が、「じゃ」と言って立ち上がった。
「待ってよ、和さん!」
立ち上がって呼び止める男に、白石が振り返る。
「傷つけたのは悪かったと思ってる。でも俺は今でも和さんが好きだ」
「俺だって好きだよ。でもしょうがないだろう?俺には受け入れられない。受け入れようと思ったけど、やっぱり無理だった」
「やり直せないか?」
白石は首を振って、「無理だよ。ゴメン」と謝った。
「そんな――」
と呟いて、男は項垂れた。
「そんな……簡単に、別れられるもんなのか?」
「……」
「7年だぞ。7年も一緒にいて――そんなに簡単に別れられるのか?」
「15年一緒にいて別れた夫婦を知ってる」
「――」
その言葉に、野崎は俯いた。
「ダメになる時って、案外こんなもんなんだろう?自分でもビックリするくらい、気持ちが引いてるよ」
「……」
「でも。気持ちが離れても、記憶は消えないよ。聖さんと過ごした7年は、俺一生忘れない」
「和さん……」
泣きそうな顔をして、じっと自分を見る男に、白石は笑顔を見せると、「お互い、元気で頑張ろう」と言った。
「また、どっかの現場で会うかもしれないけど……そん時はお互い――いい仕事しようぜ」
精一杯の強がりだと分かっている。
でも今はこれしか言えず、白石は頭を下げると、足早にその場を立ち去った。
野崎と宇佐美も、慌ててその場を離れた。
立ち聞きしていたことがバレないように平静を装い、戻って来た白石に笑顔を向ける。
「大丈夫だった?」
そう聞かれて白石は、「なにが?」と返し、「全然、問題ないね」
と嘯く。
人通りの少ない駅裏の小道を歩きながら、得意げな顔をして言う。
「引導渡してやったよ。もう二度と会う事はないって!」
「おぉ――」
一部始終を見ていたが、2人は何も言わず頷いた。
「あんな奴に未練なんかあるわけないだろう。別れて清々したわ」
「……」
その言葉に、宇佐美がじっと白石を見る。
網膜を通して、何かを見る様なその視線――
白石は急に不安になり口ごもると、ふいにべそをかくような顔をしてその場に蹲った。
「おい、どうした!?」
野崎が心配そうに歩み寄る。
「え――ん……」
――突然。
泣き出す白石に、野崎は思わず笑ってしまった。
宇佐美は傍に跪いて肩に手を置いた。
「元気出して下さい、白石さん」
野崎も跪くと、「よしよし」と頭を撫でる。
「本音……言っていい?」
2人は頷いた。
「本当は別れたくない。やり直したい!そんなアッサリ別れられるわけないだろう!?」
「うんうん。そうだよな。だってまだ好きなんだもんな。分かるよ、その気持ち」
「えーん、野崎ぃぃ」
野崎に抱きついて泣く白石を、宇佐美は優しく見守った。
いい年した男2人が、昼間の路上で抱き合い慰め合う。
しかも駅裏の、ラブホテルの前で――
(もし今通報されたら、なんて言い訳しよう……)
そんなことを考えながら、宇佐美は黙って目の前の2人を見つめていた。
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