第5話 顛落
起きて硬いパンを食べ昼はピエールとエルとランチをして本を読み、夕方に帰る。ちなみに教会には新しい司祭様が来た。温和で優しそうな人だったけど父様とは少し違った。とても神々しくなった。主にてっぺんが。
そんなこんなで父様が聖都に行ってしまってから1ヶ月、少し寂しさを感じつつもそんないつも通りの生活を送っていた、、、はずだった。
本を片手に帰路に着いた時それは聞こえた。言い争う声は聞き慣れたもので家の前に止まっているのは装飾が施された馬や鋼鉄車、そして騎士達だ。
何が起きている?周囲には騒ぎを聞きつけたのか村の人が遠巻きに見ておりひそひそと話している。
「—————どうしたんだ?」
「————なんかあそこの旦那さんが異端者だったらしいぞ」
「本当か?その旦那さんて司祭様じゃなかったか?そんなことあるのか?」
「知らねえよ。でもあれ聖都の騎士がそう言ってんだからそうなんだろうよ。でもその司祭様の妻が魔女でたぶらかしたって話みたいだぜ」
「いや魔女って御伽話の話じゃないのかよ。そんなやばいやつがまじていたのか?」
———何を言ってるんだ?父様が異端者?いやそんなわけがない。父様は正真正銘の司祭でちゃんと教義を守っている。それに常に聖書を肌身離さず持っているくらいだ。
それに母様が魔女?それこそありえない。魔女なんて御伽話にしか出てこないし、それこそ怪しげな術を使って人を貶めたり、世の中を混乱に導いたりするなんて言われている存在だ。母様がそんなことするわけないし見たことない。
「魔女の疑いにより拘束し尋問を行う。着いてこい!」
僕のそんな思考とは裏腹に騎士達は母様が本当に魔女だと信じているようだ。
「やめてください!離して!」
まずい!このままじゃ母様が連れいかれてしまう。その前に何とか説明して誤解を解かなきゃいけない!
そして足を踏み出した時、ほんの一瞬人垣の隙間から母様と目が合った。そして———
「来ないで!」
え、、、、、、?
「大人しくしろ!」
ガッ、鈍い音が鳴った。騎士が剣のつかで母様を叩いたのだ。
やめろ!そう言いたいのにその一声が出ない。さっきの一言、それは騎士に言ったのではなく僕に言ったようにしか聞こえなかった。そして体が震えてくる。
「出せ!」
母様の姿は檻車に入れられすぐに見えなくなった。
騎士達が見えなくなった後、野次馬たちは噂をしながらそれぞれに帰っていく。後に残ったのは僕1人だけだった。
どうしてどうしてどうして?なんでなんでなんで?父様が異端者なわけない。母様も魔女なわけがない。なんで騎士達が来たのか、何も何もわからない。圧倒的な情報が足りなかった。
結局その日は眠れなかった。何をすればいいのかもわからず考えれば考えるほどに混乱が渦を巻く。結局朝まで茫然自失となったまま過ごし外に出た。
気持ちのいいはずの陽光も微風も周りの景色も何も気にならなかった。ただ歩いて、、、頭が急にふらついた。
なんだ?何が、、、痛み?鈍い痛みが頭に響く。そしておでこを触ってみるとぬめりと手が滑った。血だ。血が出ている。近くに落ちたわずかに赤い石。
え?投げられたのか?そして横を見ると僕よりも少し大きいくらいの子ども、それが気味の悪いものを見たように顔を顰めて叫ぶ。
「帰れ!異端者が」
「魔女はどっかにいけ!」
「罪人は村から出てけ!」
罵倒と石がたくさん飛んできた。なんで?みんな信じているのか?母様が魔女だって。そんなことあるわけないだろ!
そう叫ぼうとしたが罵倒は続き一方的に石やゴミを投げつけられた。
なんでだよ!!
意味がわからない。お前達なんかより父様も母様もすごくて優しい人なのに!
「睨んでるぞ、」
「くそ、気味が悪い。やっぱ魔女の子なんだ」
痛む頭を抱えながら帰った。人にはほとんど会わなかった。わずかに合った人も僕を見るとそそくさと逃げるように去っていくか罵倒、もしくは唾や石が飛んできた。
異端者、魔女、罪人、裏切り者、詐欺師、嘘つき、全部僕を表す言葉でぐるぐると頭を回っている。悔しいけどこの村には僕の居場所はない。せめて父様が帰ってくればなんとかなるかもしれない。いやむしろ母様をこっそり助け出して父様のとこまで逃げるべきかもしれない。
未だにジクジクと痛み血を流す頭をかろうじて動かし必死に考える。そして家まで帰って———
—————————え?
「母様、、、、、?」
騎士団に連れて行かれたはずのその姿がそこにはあった。変わり果てた状態で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます