第6話 絶望


 痛々しい。爪は剥がされて足の腱は切られている。あちこちに打撲痕があって切り傷もあった。そこまで詳しくわかるのは服がビリビリに破られていることもあった。僕でもわかる拷問の痕跡だ。


 ああ、急速に血が引いていくのがわかる。恐る恐る近づいて、、、


「、、、なんで、なんでだよ!!」


 怒りが収まらない。母様は悪くない!あいつらが、あいつらが魔女と母様を間違えるから、、、!


 ギリリと歯を食いしばる。殺してやりたい。騎士の連中もこの村の裏切った連中も!神罰が降るに違いない。そうでなければこんなこと許されるはずがない。


 そうだ。きっと父様なら、、、

、、、、、、、、、、、、父様は無事?



 、、、

 、、、、、、

「うっ、、、」


 喉がしゃくれて吐きそうになる。ドクドクと心臓の鼓動が早くなり息が詰まる。


 そんなわけない。そんなことはない。自分に言い聞かせて落ち着けようとするが考えれば考えるほどに焦って気持ち悪くなる。


 父様は司祭だ。いくら異端者認定されたと言っても教会が承認した公的身分だ。そう簡単に拷問して処刑などとなるはずがない。あっちゃいけない!


 母様が連れて行かれる姿が、人々が口々に罵り石を投げる姿が、その表情が鮮明に見える。


 異端者は異端審問にかけられ絞首刑となる。これは子供でも知っている常識だ。



 生きている保証なんてどこにもない。




「終わりだ、、、」


 さっきまでの怒りも焦りも何もない。僕には何もできなくて、ただ信じることしかできない。でも、僕はそんなちっぽけな可能性を信じられるほど楽観的ではないし信心深くはなかった。現実を見てとっくに絶望していたんだ。


 父様は異端者で母様は魔女。そして僕はその子ども。そうされてしまった。



 そうだ。母様をこのままにしておくわけには行かない。僕しか弔える人はいないんだ。きちんとお墓を作らなきゃ。


 穴を掘ってレンガを組み立て父様に教えてもらったやり方で釜土を作った。普通は土葬だけど火葬にした。これなら死体を掘り返されて誰かに貶められることもない。


 結構臭うんだな。自分の母親の遺体を燃やして出てきたのはそんなどうでもいい感想だった。


「———!」


 普通なら臭いに顔を顰めるかもしれないがただパチパチと燃える炎に僕の目は釘付けだった。いっそこのまま僕も、、、



「ユーグ!」


 、、、、、、、、、、え?


 胸ぐらを掴まれていた。










 


 





 

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