第4話 別れ
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父様が騎士の人と何かを話している。お昼時、ちょうどランチをしている時に彼らは来た。蹄の音が鳴ってうちの前止まり馬の威鳴き声が聞こえたんだ。ちらっと見たけど鎧を着て剣を携えた完全武装の騎士だった。父様は一応司祭という立場だからその関係で何かあったのかもしれない。
母様の方を見たがなんか険しい顔をしている。
「大丈夫よ。父様は高潔な司祭様なんだから、」
「、、、、、、」
目が合うとそう言って僕の頭を柔らかい手が撫でてくる。その手は少し震えていて別に僕は心配しているとも何とも言ってないが何かそう言い聞かせるようだった。
無言の時間が続きピリピリとしていたがしばらくすると父様が帰って来た。一気に空気が弛緩する。
「あなた、なんだったの?」
母様が心配そうになんだったのかと父様に問う。
「そう慌てるな。ただ聖都の方に行かないといけなくなった」
「それって、」
「ああ、新教派の宗教論者として公会議に出て欲しいそうだ」
「それでわざわざここまで?」
「どうやら向こうはだいぶ溝が深いようだ。下手をすれば弾圧が始まる可能性もあるみたいでな」
「そんな危険なこと、、、断れないの?」
「それで負けられても困るだろう?なら私が行った方が確実だ。任せてくれ、これでも口喧嘩では負けたことがないんだ。聖書を盾にして反対するやつは全員論破してやるさ!」
調子のいい声でそう言う父様は頼もしくて少しも不安はないみたいだ。その様子に母様も少し笑みが漏れる。
「気をつけてくださいね、、、」
「ああ、大丈夫だ」
詳しくはわからないけど、、、父様は自分の信仰を守るために聖都までいかなければならないらしい。自分もついて行ってみたいけど仕事ならわがままは言えない。
「ユーグ、父様がいない間はお前が母様を支えてやるんだぞ。いい子にできたらお土産を買って来てやるからな」
「ほんと?じゃあ人体解剖図か地図が欲しいな」
人体解剖図とは人の体を切り開き、骨や筋肉の位置、臓器の仕組みなどを記したものだ。教会の影響が強い地域では解剖は神に対しての背信であるとして解剖学自体が弾圧された歴史があるので滅多にお目にかかれるものではないのだ。
地図も詳細な地図は防衛の観点からおいそれと流出できるものではない。どちらかと言うと欲しいのは大雑把で広い範囲のものだがそれでも簡単には入手できないのだ。
「うーん、難しいがうまくいけばそれくらいは頼めるか、、、。よし、父様に任せろ!」
「ほんとに?!」
「そうだ、もう行かなければならないんですよね?荷物をまとめてきます」
バタバタと母様が部屋を出て行く。
「ユーグ、ちょっといいか?」
「なんですか?父様」
「これを渡しておく」
「これは、、、?」
渡されたのは赤い布表紙の本。新品のように綺麗でシミもない。
「いつかお前に言った最初の聖書。それの写しだ」
「これが、、、」
「そうだ。いいか?私が帰ってくるまでこのことは誰にも言っちゃだめだ。もちろんピエール君やエル君にもだ。母様は知っているだろうがな」
父様の表情はいつになく真剣でなぜ?とは聞かなかった。
「それは我々の信仰の魂と同じだ。もちろん興味がなければ読まなくてもいいし燃やしてもいい。でも燃やす時は紙切れひとつ残すなよ?」
「、、、わかりました」
聞きたいことはたくさんあるが飲み込んだ。
「いい子だ。お前は私の自慢の息子で特別な子だ。そうだお前にプレゼントを残して置いた。きっと誕生日には帰ってこれないからな。ちょっと早いが、おめでとうユーグ。我が息子に神の祝福あれ、、、てね」
「あなた、準備できたわ」
「ああ、ありがとう。すまないね、こんな慌ただしくなってしまって」
「とにかく気をつけてくださいね」
「ああ、もちろんだ」
3人で抱き合った。温もりが心地よくて少し力が強くて震えているような気がした。数瞬の間言葉を交わすことなく抱き合い、それが離れていくのがなぜか無性に不安になってしまう。温もりが離れ部屋の空気が冷たく感じる。
「じゃあ、行ってくるよ」
「ええ、いってらっしゃい」
「いってらっしゃい!」
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