第2話 友人

「おい、何読んでんだ?」


 広場の木の下、木影に遮られた陽光と微風が気持ちいい風のなか邪魔者ピエールが覗き込んでくる。


「内緒、」


 汚されたり破られたりしたらたまらないのでパタンと閉じる。どうせ文字すら碌に読めないコイツに理解できるとは思えないし。


「はぁ?」


「どうせピエールには理解できないよ」


「あ?なんだと!?」


 短気な友人ピエールはすぐに手がでる。今だって胸ぐらを掴んできてるし。でもこういう時は大抵、、、


「コラー、!2人とも喧嘩しない!」


 白のワンピースを着た黒髪の少女。彼女なりに精一杯怒っているのだろうが頬を膨らませて睨んでくる姿は小動物リスが威嚇しているようにしか見えない。


「いやだってこいつが俺を馬鹿にしてきたんだぞ?」


「いちいち乗らないの。ユーグも挑発するようなこと言わない」


「やーい、怒られてやんの」


 キッ


「う、、、」


 すかさず馬鹿ピエールが煽ってくるがエルのひと睨みで黙った。ピエールはエルに弱いのだ。


「はあ、ほんとに毎日よくやるわね?そんなに喧嘩して飽きないの?」


 心外だ。なんでこの馬鹿ピエールと一緒に扱われなければならないんだ。


「こいつと一緒にするな。喧嘩ってのは対等なやつ同士でしか起こらないんだよ。こいつが僕と同レベルなわけないだろ。神と虫を比べるみたいなもんだ」


「はぁぁぁあ?その場合テメェが虫だからな。毎度毎度よくわかんないこと言いやがって!虫みたいによく喚くもんだぜ」


「はいはい、ストップ。2人とも学習能力が虫以下だというのはわかったわ。飽きないならしょうがないから大人になってもやってなさい。でも時と場所を考えて。せっかくのランチが冷めちゃうわ。いらないのならいいけど」


 それは困る。エルの料理は美味しいんだ。それを当てにしてランチはいらないって母様に言っちゃたし。


「はい、これがジャックの分。で、こっちがピエールの」


「お、サンキュー」「ありがとう」


 中身は粟入りの堅パンに野菜と肉が挟まれたサンドウィッチだ。


「うめぇ〜、さすがエルだぜ」


 確かに美味しい。ただのサンドウィッチより美味しい。パンも普通のより少し柔らかいし、これはソース?


「よかった。ユーグもどう?」


「凄いね。パンも柔らかくなってるしそれにこれ香辛料?このペースト状のやつ、すごく工夫されてる」


 正直な感想だった。使ってる素材は同じなのに屋台やパン屋よりも美味しい。


「そこまで褒められるとちょっと照れるな。でもさすがだね、そこまで気づくなんて。そのペーストは料理で残った油と香辛料を少し混ぜたものなの」


「まあ、俺も気づいてたけどな」


「はいはい、すごいすごい」


「ふふん」


 隣でピエールが知ったかぶりをしてエルにするっと流されている。きっとこれがどれだけすごいかピエールは言わずもがなエルも気づいていないのだろう。食べやすくバランスの取れた食事はそれだけで重宝される。


 普通のパンはまともに食べれば歯が折れるくらいに硬くてそれを毎日食べてれば自然と歯がぼろぼろになる。歳をとっていけばそのうち何も食べれなくなってしまうのだ。それに決して豊かとは言えないこの村では野菜の芯だろうと残り汁だろうと利用する。それをこれだけ美味しく利用できるのは一石二鳥だ。


「いや、ほんとにすごいよ。こんなのが毎日食べれたらお腹をくだすこともないしバランスも良くて食べやすい。きっと長生きできる。エルと結婚できる人はきっと幸せ者だよ」


「「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」」


「、、、、、、、、、なんでそんな固まってるの?」


 何もおかしいことは言ってないのに。あ、ピエールは馬鹿だから僕が何言ってるかわからないのか。


「いや、、、、、、お前、良くそんな小っ恥ずかしいこと面向かって言えるなって、」


「え?別に褒め言葉だけど、、、、、、」


 エルの方を見るとなんかだんだんと赤くなって、、、なんかタコみたいだな。実際には見たことないけど。


「おい、騙されんなよ。こいつ性格悪いし嫌味しか言わないからな」


「心外だ。別に嫌味じゃなくて本心から思ったことだ」


 プシュー、あれなんかまた赤くなってる?タコというよりりんごみたいだ、なんかアホ毛たってるし。


「ふああああ、、、」


 あれフリーズした?大丈夫かな———


「おい、それ以上近づくな」


「なんでだよ」


「エルが危険だからだ。エルをたぶらかす悪いやつから守るのは俺の役目だからな」 

 

 なんだこいつ。前に立ちはだかるように立つピエールを見返す。


「はあ?お前何言ってんだ?とうとう頭いかれたのか?いや元からだったか」


「あ、なんだとこの本のウジ虫野郎が」


「は?中身の詰まってない頭でっかちが何偉そうにしてんだ?」


「あ?やんのかてめえ」


「こっちのセリフだ馬鹿が」


 歯止め役が居なくなったことによって途中で止まるはずもなく怒声と鈍い音がエルが正気を取り戻すまで広場に響いた。





 


 






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