魔女狩り

白銀尊

第1章 始まりと終わりの始まり

第1話 教会

 少しくすんだステンドグラスから差し込む陽光に照らされた小さな教会の中、高潔な牧師は神理を説き信心深い信者はうたう。


 教会は小さく古風だが僕の目には見たこともないが本や人から伝え聞く聖地にある豪華な教会や聖色の祭服よりも好ましく見えた。


「父様」


 教会から最後の1人が出て行ったところで声をかける。


「ああ、ユーグ。父様に会いに来てくれたのか?」


 柔和な笑みを浮かべて大きな手が僕の頭を優しく撫でる。


「母様に言われて忘れ物を届けに来たんだよ」


 そう言って母様から渡された一冊の本を渡した。それは古ぼけた本であったがきちんと手入れがされ紙の折れも大きな汚れもついていないものだ。


「ああ、忘れていたよ。これは父様の宝物だからな。わざわざありがとうな」


「それは何の本なの?」


「そうだな、、、ユーグは父様との秘密を守れるか?」


「勿論です」


 即答した。


「いいだろう。そうだな、これは本ではなく聖書、その原本だ」


「原本?」


「ああ、今私が右手で持っているのが教会によって発行された聖書。そしてこっちが最初の聖書、神の書とも呼ばれているな」


「じゃあ中身は一緒なんだ」


「いいや、一概にはそうとは言えないんだ」


「なんで?だって同じ聖書なら書いてあることは同じはずじゃ、、、」


「ユーグ、このことは一切他人に話しちゃだめなんだ。だから今はそっと胸の内にしまっといて欲しい。でもその疑問は忘れて欲しくない。きっとお前を正しい方向に導いてくれる」


「、、、?どういう意味?」


 言っちゃダメだけど忘れないで欲しい。それで僕を導いてくれる。どういくことだろうか?


「今は気にする必要なくて大人になったら考えればいい。あと他の人に話しちゃいけないってことだ」


 よくわからないけど父様の言うことはだいたい正しいのでそう言う通りにしておいたほうがいいのだろう。


「、、、わかりました?」


「いい子だ。じゃあ、帰ろう。今日の夜は久しぶりのご馳走だろう?」


「あ、そうだ。夕食までに帰るように言われてたんだった」


「ならば急がないとな。母様に怒られてしまう前に」


 手を繋いで歩く。僕の心は久しぶりに贅沢な食事を食べられることに躍っていて聖書のことは頭からすぐに抜け落ちた。




 


 

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