第35話 すき焼きが食べたい。
朝起きて、森に入って、ヴェズルフェルニルの巣を探す。こいつも結構手強くて、肉を狩ろうと思うと「無風の加護」によって矢をキャンセルしてきてだるいのだが、まあ、卵貰うだけならちょっと突かれるのを我慢すればなんとかなる。貴重な子供達を奪ってるわけだから、突かれるの自体はしょうがない。自己満足に過ぎないがお礼を言って卵を持ち帰らせていただく。
基本的に美味しんぼ信者なのだが、魯山人風すき焼きってちょっとストイックすぎる。ただ、最初に肉だけ食うというのは好きだ。ということで、間を取ってというか、まず牛脂を敷いて鍋を熱する。なるべく薄切りにした牛肉を焼き、その上面に直接砂糖を乗せる。結構、「マジ?」というくらい載せるのが好きだ。A5和牛とかの場合にそれをやるのがいいかどうかは宿題とします。まあ、言うて野生の牛なので、このくらいがっつり味つけちゃっていいと思う。年に一度の果実酒のうち、味が薄そうなやつをくすねてきて、醤油と1対1にして、煮切ってアルコールを飛ばす。そういえば、昆布風の出汁が出る海藻を取ってきても良かったな〜と思うが、まあいいことにしよう。片面が完全に焼けたと思ったらひっくり返して、この煮切り醤油でさっと煮焼きという感じにする。卵を溶いておいて、がっつり絡めて、啜るゥ!!
美☆味☆い!!
ちょっと涙が出た。うめすぎた。セロトニンとかアナンダマイド以前にドーパミンがどばどば出ているのを感じる。堪らん。
一応ユスラとかには食わせたのだが、基本的に薄味を好むみたいで、「うーん、兄さんが美味しいと思うなら……」という感じだった。そんな〜。まあいいか。じゃあ好きなだけ食わせていただきます。
かなり肉に満足したところで、豆腐を入れて、白滝を入れて、ちょっと焼く。本当はネギと春菊が欲しかったが、まあ、白滝ってのはだいぶいいですね。これでちょっと舌をリセットして、だいぶなんか「煮る」という感じになったところで、再度肉を投入するッ! これはこれで美味い!! あー美味い美味い美味い。無我夢中で食べて、食べ終わったらもうそのままぶっ倒れて動けないくらい満腹になった。
夕方まで少し眠って、サンとウカと少し話した。ユスラともちょっと話して、で、もう俺の目的は大体達成したので、このあとどうする? と聞いてみると、ケイミーたちのところに戻って、新しい航路の開拓を手伝ってみたいということだった。なんかやっぱ一番冒険者の資質があるなあと思いつつ、じゃあまた、一緒に旅に出ようと伝えて、ヒエンくんへの手紙に少し付け加えた。
深夜。パヴーからきな粉を作ってもらっていた。これはものすごい魔力の塊になっている。本当は餅とかにつけて食いたいが、それだと量が取れないので、薬だと思ってごくごく飲む。過去最高に魔力が漲っているのを感じる。俺の推測が合っていれば、これならいけるだろうと思う。全ての魔力を振り絞って、俺は、この世界の女神に、俺の考えが届きますように――と魔法を唱えた。
体(の周り)から魔力がごっそり抜け落ちていく感覚がある。
そして俺は――――あの夜、トラックに轢かれた後に訪れた、あの「天界」のような空間に、再び呼び戻されたのであった。
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