第30話 里帰りがしたい。
ラマイの森に帰ろうと思ったのは、まあ多分通り道であるからということのほかに、この豆の栽培先としてどうかなと思った。あそこは魔力が豊富なことは間違い無くて、まあなんならマンドラゴラ群生地なんかめちゃくちゃ豊富である。変に交雑して、鞘を剥いたら絶叫する豆ができたら困るが、流石に人参と豆で交雑することはなかろう。ないよね? 自信はあまりないが。
道道、ヴァリスの民の話をした。まあ別にそれで村を焼かれた恨みを許せと言うわけではないが、事情は知っておくといいのかなと思って。ウカはぽつりと、
「じゃあ、これを持って行かれたとしても、魔王が復活するということは、なかったんですね」と言った。あーだから多分、魔王が倒された(女神様によって?)時に、蘇っちゃあ困るから、遺骸を分割して、そんで腐るところはおそらく腐ったのだろうが、それ以外の部分、水晶体とかね、は、腐りもせず残ってしまい、不死不滅の部分があるってことは、そこから復活したりすんじゃないの? というのがヴァリスの民の一部には希望として、それ以外の人にとっては絶望として残った。絶望側の処理としては、まあ、遠隔で保管して、他の部分と接続しないようにするというのは、妥当なように思うよね。そういうある種の誤解というか、盲信というか……が、長い年月によって確固たる一族の使命みたいになってしまい、それでもって森が焼かれても決して渡さないぞ、そのために旅に出て行方をくらませるぞ、みたいになってたのが、つまり、本当のところなのだろうと思う。まあなんというかねえ。これも、ずーっと平和に暮らしてきて、めっちゃ大事にしてたものが、実はクジラの尿管結石でした、わっはっはあ、くらいだったら笑えるオチでいいんだが、それに命とかが掛かってしまったっていうと、ちょっと、いやだいぶ笑えない。わかるよ。
かなり複雑そうな顔をしていたが、森に戻る頃には落ち着いてた。それで、サンとウカは、もともと俺たちがいた集落にしばらく住んで、豆の栽培を試してくれるという。それは結構ありがたいね。
ずいぶん長く離れてた気がするが、まだ1年も経っていない。それでも、俺らが姿を見せると、集落のみんなは喜んでくれた。「せっかくだ、雨乞い祭りをしよう」というので、あーだったらちょっと待ってくれということで、一旦マンドラゴラ群生地に行って、いくつかマンドラゴラ抜き機をセットし、ついでにパヴーも植えて、集落に戻って久しぶりの祭りを楽しんだ。いつの世も、どの世界でも、「祭り」は楽しいね。キライトくんはそこんとこあまり分かってないような気もする。辺境伯地に戻ったら、なんか、辺境伯様を称える祭りでもやればいいんじゃないかと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます