第29話 魔王由来の差別的処遇は気の毒だが、それはそれとして豆がほしい。

 「それがなあ」と里の男たちが話したのはこういう話だった。


 最後に「魔王」(侵略的外来生物的な存在)が現れた時、「魔王」は別名、「翼ある闇」と呼ばれていたらしい。らしい、というのは、ヴァリスの民も、あとなんなら俺らエルフもかなり長寿っぽいのだが、それでも数世代前くらいの話になってしまうので、どうしても伝聞になるということだった。まあ、黒い翼が目立ったのであろう。ロシア人っぽい顔つきだったという可能性は、あんまりないと思いたい。


 で。

 ヴァリスの民というのは、立派な黒い翼を持っている。自分で飛ぶというのは難しいが、滑空くらいには使えるらしい。羨ましいものだが、黒くて立派な翼である。魔王が「翼ある闇」である。つまり縁者と思われたそうである。彼らの祖父の世代には、ここらへんだけでなく、それこそラマイの森から、今サマ王国(キライトくんが所属する王国だ)の持っている領土の大半にヴァリスの民がいて、権力も持っていたみたいだが、魔王出現に伴って猛烈な迫害を受けて、峡谷のこっち側で暮らしていた人たちだけが地の利でギリ生き残って、向こう側で暮らしてた人たちはもう軒並み殺されたということらしい。そういうこともあって少なくともヴァリスの民側は峡谷を越えようという人は基本的におらず、一方でラマイや人間については存在すらほぼ忘れているみたいな状態になっている。

 この歴史に腑が煮えくりかえるように怒りを感じる人もいる。まあそれも分からんではない。嘘か本当かは分からないが、「魔王の翼」と伝えられている巨大な翼や、「魔王の瞳」と伝えられている水晶玉、あと全国的に「魔王の骨」と呼ばれている強い魔力を持つ石、「魔王の右腕/左腕/右足/左足」、そんで「魔王の頭骸骨」などなどがあるはずなんだと言う。これらを全て揃えてなんらかの儀式をすると、魔王が復活し、それでヴァリスの民はかつての版図を取り戻す。そう強く信じて行動している人たちもいるにはいるらしい。


 そういうわけで、同じ民族が他の人たちに迷惑をかけているんだとしたら、それは申し訳ないという話だった。なぁんか難しいっすねえ。それもこれも、なぜか湧く魔王的存在が悪いのだが。まあ、それをどうにかするのはキライトくんの仕事だということである。俺らはすき焼きが食いたいだけ。あんまサンとウカを待たすのも悪いし、パヴーの種子を分けてもらえないかと聞いたら、快く貰えた。


「ただ、魔力がない土地で育つかはわからんなあ。そういう意味では希少ではある。まあそれもあって、できればここで採れたとかは、確かにあんまり言わないでほしいなあ。必要だったらまた分けてやるから、他のところで人に会っても、あまり教えて回ったりはしないでほしい」

「まあ、だから、その昔の羽なしのホラ吹きと同じ嘘をつきますよ。カリン塔というバカ高い塔があって、そこを登ってわずか数粒しか手に入らないって」

「それもどうかと思うがなあ。まあ、よろしく頼むよ」


 ということで、鞘に入ったパヴーをたくさんもらって、お礼に日持ちしそうな調味料とかを置いて、俺らは、一旦ラマイの森に帰ることにした。

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