第28話 突撃! 隣の晩御飯。
まあそんなこんなで、近くの森でサンとウカには待機してもらって、放浪の旅にでいている兄妹として、なんかすごい魔力の溜まってるところを見つけて恐る恐る近づいてますよ風に、そのヴァリスの里に向かった。
で、里に足を踏み入れると、門番てわけでもないんだろうが、すぐに二人組の男に誰何されることになった。まあ、この二人だけならなんとか逃げられるだろう。ということで、なるべく穏やかに話しかけた。
「こんにちは。俺たちはあっちの方から、世の中を見て回ろうと思って歩いてて、すごい魔力の溜まってるところを見かけたもんで、ドラゴンでもいるのかなあと思ったら人里でね。びっくりしたので、つい近寄ってしまった。俺たちが立ち寄ってもいいもんかね?」
すると、二人組の男は、
「ああ、そうかねえ。あんたたちもなかなか魔力があるみたいだが。このへんはそもそも、すごく魔力のたまりやすい土地でね。それで、特に、パヴーという植物は魔力を溜め込みやすくてね。それを食ったら、あんたたちもすぐこうなるさあ。食ってくかね?」
「そりゃありがたい話だが、貴重なもんじゃあないのかね?」
「貴重と言えば貴重だが……。ま、立ち話もなんだ。こんなところだが、食堂があるんでね。そこで話をしないかね。おれたちも、ずーと孤立して暮らしているからね。外の人の話は、ぜひ聞いてみたいもんさ」
「そうなのか? なんか、あなたたちのような翼が生えた人たちが、魔王遺物とやらを探して世界を飛び回ってるみたいな話を、東の方で聞いたが」
「ああ、ありゃなぁ……」
男は苦虫を噛み潰したような顔で呟き、とにかくこっちに来なよと言う。
まあなんか、そんなに害意はなさそうだ。ユスラの顔を伺うと、穏やかそう〜にしていたので、まあ、多分大丈夫だろう。ユスラメーターを信じることにして、その食堂というところに向かった。
名物は冷奴の醤油かけたやつ! だったら最高だったが、そうではなくて、普通に豆(パヴー)のスープだった。いやでもうまい! 豆じゃん!! 最高。お代の代わりに塩と砂糖を渡したら大層喜ばれた。良かった良かった。
「これは、やっぱり魔力がないと栽培できないものなのか? 俺たちの故郷にも持って帰りたいくらいだが」
「どうだろうなあ。むかーしのむかしに、この街に住んでいた羽なしの男がいたんだがね。あいつは幾らかのパヴーを握りしめて、それこそ東に向かったんじゃあなかったかなあ」
「ああ、だったら俺たちはその男の書いた本を読んで、それでここまできたんだよ。と言っても、そいつはこの里のことは書いてなくて、カリン塔という塔の上で仙豆という不思議な食べ物を手に入れた……って書いてたんだけどな」
「センズ!! 懐かしいなあ!! おいおいおい、そうかあ。お前、あの羽なしのホラを信じて、ここにきたってかあ」
そういうと、ガッハッハと男たちは盛り上がった。
今からかなり昔のこと(ということは、ヴァリスの民って多分かなり長生きなんだろうね)。突然羽が生えていない男がこの集落にやってきて、最初は言葉もわからないし、息も絶え絶えだしで、かなり困ったというが、パヴーなんか食わせてしばらくこの街に住まわせてやると、とても元気になったらしい。
で、日がな一日ホラを吹いていたそうだ。
「やれ、電気を通すだ、火薬を作って無双するだ、魔法を利用してなんとかカネにならないか……とか色々と言ってたが、まあ、どれもこれも実現しなくてな。そうそう、それでパヴーのことを「センズ」と呼んでたんだよ。その「センズ」がツウカ代わりになるだろうと言って、袋いっぱいに背負って旅に行ってなあ。のたれ死んでやしないか心配だったが、そうかあ、だったら元気に本まで書いてたっていうわけだ。そりゃあ安心したよ」
ということで、ま、なんかやっぱいい人たちだよね。雰囲気的にはラマイの森に良く似ているので、まあそういうところでは基本的にこういう人柄になるのであろうというのは納得するところである。昔に転生してきたのであろうその男は、パヴーを齧り齧り東に向かって、まあ文献に残るくらいの活躍はしたのであろう。あの辺は魔力に乏しいから、もしかしたら結構無双できて楽しんでいたのかもしれない。でも、まあそれこそマンドラゴラについて伏せたようなもんで、仙豆の原産については秘密にしたと。わからんでもないね。
しかし、やっぱどうしてもこの辺の人たちが、魔王復活を目指して森を焼いて回るようには思えない。サンとウカの集落を荒らしていったヴァリスの民ってのは何者なんであろうか?
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