第31話 小人閑居して不善を成したい。
再び山を越えて辺境伯地へ向かい、キライトくんに諸々を報告した。もともと仙豆はオピオタウロス討伐のために取得したかったものだが、豆としては有用かもしれないが、体力回復効果は特になく、だったら効能としてはマンドラゴラと一緒である(味や収穫性という点ではかなり仙豆の方が取り回しは良いのだが)。そのマンドラゴラについては、雨乞い祭りもやって、また収穫してきたので、俺とユスラ以外にも食いたいやつがいれば食ってもいい。あと、「もういらないし、狙われても嫌だし」という理由で「魔王の瞳」は預かってきていて、かつ、この嘘発見システムを使えばキライトくんがさらにのし上がれそうみたいなことを前言ってたと思うので、献上することにした。と言っても、使用者が握って魔力を通しながらじゃあないと使えないので、仕組みがバレたら使えないような気もするが。
俺の報告を聞いたキライトくんは、しばらく考えて、
「うーん。とりあえず豆の収穫が終わって、その豆の方に魔力が溜まっているか確認できるまで待ちましょうか。やっぱり、仰る通りで豆の方が取り回しがいいですし。豆があれば、醤油の生成にも期待できますよね」
「俺としては、そのオピオタウロスが本当に牛味かというのは結構気になっているところなんだが」
「気持ちはわかるんですが……。海は王国の中央地を越えて、この国の北の端の方にあるんですよね。ということは、どんなに身を隠しても、ヒエンさんたちの存在が表向きになる可能性が結構あって、一種根回しというか、そういう調整も必要なんです。それを待ってはいただけないでしょうか」
「ま、そういう理由だって言うならしょうがないかなあ。キライトくんだけなら自由に動けるという話ならば、にがりは取ってきてくれ。たぶん、海水から天日干しで塩取って、その残った水分部分とか、そんな感じだったと思う」
ということで、豆が生えるのを待って、しばらく暇して暮らした。
あまりにも暇なので、すきやき鍋の鍛造? 鋳造? に手を出すことにした。
無理言って磁石を手に入れて、こまごまと砂鉄を集める。
小さい炉を作って砂鉄を溶かそうとするが、全然これ火力が足りてないね。
風だけは魔法でなんぼでも送り込めるので、酸素が足りないと言うことはなさそうだが、まず、炭の量が足らんか。あと質もあんまり良くないように思う。木炭だとうまくいかないとかあるのかもしれないが、石炭鉱山があるかどうかはわからんので、一旦、こう身が詰まった木をよーく乾燥させて、そんでギッチリと窯みたいなところに詰め込んで、三日三晩火を焚いたら炭になりそうな気がする。頭の中には田中邦衛が浮かんでいる。あーあ〜あああああ〜あ〜。
しかしこれが実は相当難しくて、焼きすぎると灰になりますわな。焼かなすぎるとただ焦げた木である。だから、あんまり酸素が行き渡らないようにしつつ、加熱がビッと決まるのが望ましい。それは「ラッキー」ではなくて、計算とトライアンドエラーで窯を組むしかない。そのためには本当は規格の揃った煉瓦があると良さそうだ。峡谷の方は赤土だから、なんか焼いたら煉瓦っぽくなりそうな気がする。適当なところを掘って、粘土質っぽい土を手に入れ、ちょっとうまく行った炭で焼く。煉瓦っぽい石ができる!
こんだこれを繋ぐ漆喰とかモルタルが欲しいが、あれって素材はなんなのかなあ。物性工学とかを勉強していれば良かったね。まあ、煉瓦になりそうな土で繋いで、外から火で炙って誤魔化す。それでもなんか見よう見まねの炉っぽい感じにはなったので、また炭焼きの日々に戻る。
そうこうしていると、袋を担いだサンとウカがやってきて、パヴーが大量に取れたと見せにくる。おお〜。嬉しいねえ。ていうかちょっと忘れかけていたねえ。小人閑居して不善をなすというが、不善をなすに至らなかった。「鉄鍋を作りたい」のかなり手前で無理になっていたのであった。きっとこの言葉って、だいぶ新しい時代の言葉だったのかもしれないなと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます