第25話 牛肉を得んとしているのでまずを豆を得たい。

 みなさんワニ肉って食べたことありますか。俺はある。まあ上手に調理すると、少しクセがあって硬めの鶏肉だなあと思う。カエルは完全に鶏肉である(もも肉系)。どういうことか? というと、大体の肉は鶏肉に回帰するということである。


 そんなこともないだろ。というのはごもっともなのだが、何せこの世界、かなりの程度身体サイズと魔力が比例するので、狩るとしても小型の動物、養殖なんて考えたら超小型のオリとかを破れないくらいのものしかないので(だからカエルとか)、大型の獣なんて食う機会がそもそもかなり乏しい。そんで、牛肉っていうのはやっぱ特別な味がするンだよねえ。


 もう閉店してしまったが、転生前の秋頃まで知人がやっていたレストランでは、それこそワニ肉とかカンガルー肉とか珍しい肉が食えた。しかし同時に牛肉も食えて、で、確かにカンガルー肉とか上手に調理されててうまいんだよ。うまいんだが、そのあとに牛肉食うと、「ああやっぱり牛肉ってうまいんだなあ」と思ってしまう。そのくらい特別である。


 加齢に伴って霜降り牛というのも、もうちょっとねえ、赤身がいいよなあって思うようになっても、なんかで叙々苑とか行って上カルビとか上サーロインとか食べると、「ああ脂の乗った牛肉というのはなんと美味いのであろうか」と思う。料理としては素朴もいいとこじゃあないですか。でも美味いんだよなあ。ああ牛肉牛肉!!


 と逸っていると、キライトくんが、

「いやただそのオピオタウロスですなんですが……相当大きいです」

 と言う。俺は

「いいねえ! 食いでがある!!」

 と喜んだが、なんかそういうことでもないのかもしれなかった。


「言い忘れてましたが、海棲なんです」

「じゃあワカメとかコンブを食って育ってるわけか! 期待させるねェ〜!!」

「いやだから。"狩る"には船を出して、海上で狩猟しなきゃあいけないんですよ? そんなに簡単ではないんですって」

「船がないってこと?」

「いや、船はまあ準備できますが。というか、航路開拓中にオピオタウロスの住処を見つけてしまって困ってるというところです。だから、駆除というか襲ってきた場合の撃退とかは是非頼みたいくらいなんですが、ヒエンさん、あなた"前世"を含めて、海上で巨大な獣の狩りをしたことなんてありますか?」

「ない……けどだよ。江戸時代とかに、もう鯨を狩ったりしてたわけだろ? 大丈夫だって」

「そりゃあ、近海に多くの船を出して行けば……ああまあそうか、だから船団方式で行くか……帆船を中心に構成すれば、風向きは『魔法』でいけるから、却って集団で行った方が効率が良いのか……?」

 とキライトくんが考え込み始めたので、俺は多分行けるなと思った。大丈夫。チート持ちの対魔王存在ゆうしゃが本気を出せば、出来ないことなど何もないッ!


「と。まあ、いや、僕も狩り自体は実現できると思ったので報告に来たわけでね。それはいいんですが、でもやっぱり危険だと。そこでなんですが、実は『豆』の件でも報告があって来たのです。これは伝説の類なのですが……サマ王国俺たちが今住んでるところを辺境とする国がこうあって、霜畳の山を境目に、ラマイの森があると。で、この山脈を辿ってずーっと南下すると、この辺に峡谷がありますよね? この峡谷の先ってどうなってるのか、色々文献を調べてみたんですが、どうも、峡谷の先には塔があるらしいんです」

「はあ」

「で、その塔のてっぺんには、なんかわからないけど豆の木が生えていて、この豆を食べるとたちどころに体力や魔力がみなぎるというんですね」

「キライトくんって、俺よりちょっと早く転生してきたんだよな? その時いくつ?」

「え、15歳ですが」

「そうかあ。じゃあ知らないかあ。それは、俺らよりもずーっと早く転生してきた人が書いたガセだと思うな。塔の名前は、『カリン塔』じゃあなかったか?」

「えっ! なんで知ってるんですか!?」

「ドラゴンボールくらい読んでこいよと言いたいところだが、まあ、そういう漫画があってね。カリン塔のてっぺんでは、(確かに良く考えると塔のてっぺんで生える豆ってなんだよと思うが)仙豆という豆が採れて、それの効能が死亡以外の回復なんだ。あと超神水というもののことは書いてなかったか?」

「それはなかったですが……そうですかあ」

 落ち込むキライトくん。なんでも、事前にこの「豆」が準備できれば、オピオタウロス狩の準備にもなるし、ついでに醤油とかを作るのにも役立つだろうと思ったらしい。

「まあまあ。魔力補充だけなら、久しぶりに帰省してマンドラゴラを狩って来てもいいしな……ていうか待てよ。その話、『仙豆』の存在自体は本当だったというケースはないか?」

「というと?」

「だから、マンドラゴラのように、異様に魔力を溜め込む豆があって、それを仙豆と呼んだと。で、俺らがマンドラゴラを粉にして持ち歩いているように、これを持ち帰って栽培……はしてないんだろうな。でも配るかなんかしたところ、キライトくんみたいな人が、それが表沙汰になったら峡谷の先の利権を争った大騒動になると考えた。それで、その豆の取得難度が異様に高いうえに、採取量は非常に乏しいということをアピールするために、カリン塔の存在で秘匿したとしたらどうだろう?」

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