第21話 世界は平和であって欲しい。

 そういえば「魔法が使える」で少しテンションがあがったが、いや普通にすごいことなんだけど、自分の健康を保つとか、筋トレの効果が出やすいとか(すごいことなんだけど!!)、そういう程度のものであって、こういうのって無くなったらわかるけどある時は大してありがたみがないというやつの典型である。快眠魔法ラリホーとか落雷魔法ミナデインとかがあるにはあるものの、前者は目に見えた効果があるでなし、後者は練習で1回使った切りである。あとはまあ、かなり魔力を使用するが、空気中の水分を凝結させて水汲みに使えるっちゃあ使えるが、これも空気中の水分量に依存するので、まあ、手で汲んできた方が早い。一方で、獣の類も魔力を持っていて、魔力を感知してしまうので、魔力量が多いと獣に逃げられやすいとか、ドラゴンに目をつけられるかもというデメリットがあって、つか今も魔力多過ぎワロタということもあって辺境伯様を呼ばれているわけだから、デメリットの方が大きいまである。一方で、マンドラゴラの採取はかなりの命懸けなので、まあ今後の安全のためを思って一応採取したけれども、そこまで積極的にしたいことではない。というわけで、マンドラゴラ粉を差し出したのはまあだから「白い恋人北海道銘菓」持ってきましたくらいの気持ちであったのだが、案外そうでもないらしい。


 まず、基本的には、この辺の獣はあんまり魔力を持ってないし、植物とかにもそんなに魔力はない。霜畳の山を越えた先が、実はそもそもある種のパワースポットであって、あの辺に住んでる人は実はもともと魔力が多くなりがちなのであろうということだった。で、基本的には「自分に作用する魔法」の方が圧倒的に効率よくて、「他人(他の生物)に作用する魔法」は効率が悪いのだが、しかし魔力量にめちゃくちゃ差があれば、この効率の悪さを押し切って、他人に魔法をかけることとかもできるらしい。良い方であれば治療魔法も使えるし、悪い方としては、梗塞とか血栓とかを作ることもできるかもしれないし、場合によっては洗脳みたいなことも可能だと。ということを認識できるほどの魔力量を持つ人がそんでそもそもいなくて、貴族的な人はいくら払っても魔力が増える食い物とかを手に入れたいということがある。場合によっては、毒とかあっても食うくらいのニーズがあるということであった。


 というところで、命懸けとは言ってもやりようとしては色々あって、味もちょっと渋いねえくらいのことで採れる植物があったら、場合によっては森を焼き払ってでも手に入れたいみたいな人が出てきてもおかしくないらしい。マジ〜?


「ですから、まずとにかく、それは超希少なエルフの秘宝で、現在は入手方法もほぼ分かってないくらいのものだ、ということで通すべきだと思います」

 俺ら、そもそもエルフ族なんですね。まあ、それっぽいもんな。

「つっても、その超希少なエルフの秘宝を目の前で舐めてしまったけどねえ。つか、それこそ「嘘」なんて、魔法でなんぼでも見破れるんじゃあないの?」

 ウカの持ってる水晶みたいなのが普及しているとすれば、そんなの楽勝だと思う。他にもなんか抜け道はありそうだと思うし。しかし、

「いやいやいやいや、嘘を見破れる魔法なんてあったら、それこそ国王の側近とか、なんぼでもなれますよ。絶対無理ですね」

 と言うので、あーなんかこれは黙っておいた方が良さそうだなあと思った。

「じゃあまあ、それは分かったよ。で、しかし、そういうことだと、俺らくらいの魔力量……って、そもそもキライトくんは大体はわかるわけ?」

「まあ、僕は別の方法チートで分かりますが、あとは貴族くらいじゃあないとわからないと思いますね。で、貴族からはバチクソ警戒されると思うので……。うーん。そもそも、ヒエンさんの目的って何ですか?」

「……すき焼きが食いたい」

「は?」

「すき焼きが、食べたい。でも、ラマイの方には少なくとも『牛』がいない。でも、アルミラージってウサギっぽいやつとかはいて、食ったら味もウサギ系だった。ということは、ミノタウロスみたいな動物とかがいて、ミノタウロスはかなり人っぽいからアレだが、そういうのがいれば「牛」を確保できるんじゃあないかと思って、そういう動物を探しに山を越えてきた」

「そ、それだけですか?」

「それだけ」

「女神様から使命とかを与えられてきたわけでは?」

「ない」

 そう言うと、キライトくんはちょっと貧血を起こしたように座り込み、何事か辺境伯様に話かけた。あとシンゲンにも話をして、っていうのを見守っていると、なんとみんな立ち上がった、あれ? 退出する感じ? って思って立とうとすると、

「や、今人払いしたんです。申し訳ないんですが、もう少し二人だけで話させてください」

 と真面目な目をしたキライトくんが言った。

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