第22話 魔王と関わりなんて持ちたくない。
すき焼きが食べたい。久しぶりに口に出して言ったら唐突に食いたくなった。マンドラゴラの粉にはかなり高い価値があるらしいし、ウカの持つ水晶玉もなんかマジで
ということで真面目にキライトの話を聞くことにした。かなり長くなるので、端折ってまとめるとこういうことらしい。
まず、この世界は旧世界(俺とかキライトくんがもともといた世界)とは隔絶したものであるらしい。それはまあそうなんだろうなと思う。で、旧世界の方はさておき、この世界は、明白に創造主がいて、女神が作ったと。まあ俺もそういうのに会ったので、そこはすんなり理解した。我々の旧世界を、アレが作ったのかどうかはわからないが……。まあ、趣味のビオトープ作りみたいに理解して良いようだ。
ところがこのビオトープに、なぜかしばしば侵略的生物が発生してしまうというんだね。なんかちっさくて良く増えるエビとか、それを適当に減らす小魚とかしか飼ってなかったはずなのに、ちょっと目をはなすとアメリカザリガニみたいなのが出てきて、ビオトープを荒らしに荒らしてしまうと。これをとりあえず「魔王」と呼称することにして、魔王対策に色々とやってみたが、あんまり芳しい成果はなかったと。で、別のビオトープがうまくいっている女神に頼んで、「魔王」に効く生物を分けてもらえないかって言って、それで採用されたのがキライトくんだそうである。
その後、言語チートや他のチートを活かして内政ものをやってきて、今この辺境伯の側近というところまでたどり着いたと。ていうか、このあたりを無理やり割譲させて、辺境伯っぽいポジションをでっちあげたというのが正しいらしい。辺境伯様はユキカゼという名前で、キライトくんのこちらでの幼馴染ということであった。なるほど。そうやって今成り上がってきた途中なわけね。
「とりあえず魔王が現れてこの辺を荒らすたびに、女神様が駆除してきたというのが実際のところなので、人間の力だけで魔王を駆除できるのかも正直分かってないところですし、魔王が現れるタイミングにも別に周期があるわけではないらしく、いつ出てくるのかもわからず薄ぼんやりとした不安を感じながら過ごしているんですよ」
「気の毒になあ」
「いや、ヒエンさんだって人ごとではないでしょうよ! 同じ世界に住んでいるんですから」
「まあ、そうだけど、全然現実感がなくて」
「ビオトープのエビだって、アメリカザリガニが来るまで何も不安に思ってなかったはずですよ」
「まあ、そうだけど」
とにかくそういうわけで、今、このパワーバランスを崩すようなマンドラゴラとか俺らエルフとか、正直面倒の種でしかないとそういう感じらしい。申し訳ないちゃあ申し訳ない。まあ、すき焼き探しを請け負ってくれると約束するならば、全然ラマイの地で待っててもいいし、なんならキライトくんやユキカゼ様がパワーアップして魔王と戦えるように、マンドラゴラ粉は融通してもいいけれど。
「いや、一応参勤交代みたいな行事ごとがあって、中央政府のところに出向くことがあるんで、そこで僕らの魔力爆上がりってなってるとヤバすぎるので、それはいいです。とはいえなあ。まず、ヒエンさんたちには、正直言ってこっから先、『中央』の方にはあんまり行って欲しくはないです。いや実は、この辺の領土って、そこの川に橋がかかってないのもそうですが、今全然開拓中なんですよ。今墾田永年私財法みたいな感じでなんとか拡張を優先しているんですけど、それだと税収はあんま増えないんで、苦肉の策なんですけど。で、最悪なのは、ある程度都市が拡大したところで、漁夫の利的に軍隊とか送られて占領されて、せっかく僕らが税も取らずに我慢してたところに税をかけて、美味しいところだけ取られるみたいなことなんですね。で、ヒエンさんたちをその尖兵にするみたいなことがありえないとは言えないわけで」
「俺たちはそういうのに関わるつもりはないけど、まあ、なんか状況が悪い方に重なるとそうなっちゃわないとは言えないわなあ」
「ですよねえ。かといって、みなさんの魔力と、あとマンドラゴラ、これは切り札としては相当に強いので、じゃあラマイにお帰りください、僕らはその秘匿に全力を注ぎますってのは、もったいないっていうか、なんかそうもいかんよなあって思うわけです」
「いや俺らはそれでもいいんだけどね」
「というわけで物は相談なんですが。この街でこっそり住みませんか? 生活については援助します。すき焼きの材料についても、定期的に情報提供をお約束します。となりの領地周辺までだったら適宜散歩したり探索していただいても全く構いませんというか、川向こうについてはむしろ地図とか作ってくれるとめっちゃ助かります。中央から人が来る時期は概ねわかっているので、その時期だけはどっか遠くでちょっと隠れ住んでもらうみたいにしてほしいですが……どうでしょう?」
「なるほどねえ。一旦持ち帰って、特にサンとウカの考えは聞きたいと思うけど、それでいいかな? あのー、最悪でも山越えて反対側の方を探索するようにするよ。それだったら、そこまで悪影響はないだろ?」
「良い返事を期待していますが……分かりました」
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