第15話 自然を踏破したい。

 すき焼きじゃあなくてもいいから腹いっぱい飯が食いたい。


 山越えは思ったよりキツい。それなりに鍛えたとは言え、かなりぜろぜろになる。天幕になるようなでかい皮を折りたたんで持ち歩いてはいたが、それを吊るす場所というのは現地調達で行こうと思っていたのであるが、思ったより険しい山で、登っていくとかなり岩場になり、引っ掛けるような木とかがない。まあ別にいいか? と思うが、なぁんか心が疲れるような気がする。屋根とか壁って大事だね。あとやはり手近なところから食事を採取できなくなっていく。保存食はあるが、何日食えないかわからないから最小限にするし、すげえ美味いものでもないから、心が潤わない。みるみるうちにやる気がなくなり、口数も減っていく。ユスラもサンもウカも比較的元気というか、ちょっと躁状態みたいな感じで、ずっと楽しそうにぴーちくぱーちく喋っているので、すげえなあと思う。少しみんなに心配されながらも、ドラゴンに襲われることもなく、ようやく「下り」に差し掛かった。で、山肌で下界をみていたら、北の方にデカめの川が流れていて、それを渡ったところに集落……というか、かなり文明的な街がありそうな感じだ。ただ、山脈側には用事がないのか、橋とか道がなさそうではある。方角を見失わないようにして慎重に山を降って、そっからまた3日とか経った頃に川に着いた。


 まあまあでかい。対岸が見えない程ではないが、川幅200 mくらいはありそうだ。そして、どんだけラッキーでも人間は水中で呼吸とかはできないし、水上を歩けるわけでもないので、まあせいぜい体幹がビシっとなって滑って転ばないようにするくらいしかできない。あとまあ、どっかで急に深くなってるところを避けるとかはできるかもしれないが、総じて危ないような気がする。上流まで行くと幅は狭くなりそうに思うが、これもまたかなり遠そうだし、そこまで行ったらまた山を登らねばならないだろう。うーん。仕方ないから、この辺でしばらく滞在して、イカダを作りますか。


 久しぶりにフレッシュな魚を釣って食べたあと、近くの森にとってかえして、あんまりしてなさそうな木を切る。で、ちょっと迷う。ここで組み立てると、川まで運ぶのが大変である。一方で、木を一本一本川まで運ぶのは往復の労力が半端ではない。まあ中間を取るか……ということで、まず川原と森の入り口にキャンプ場を作る。森のキャンプ場に木を溜めていく。数本を蔦などで縛って、これを俺とユスラで運ぶ。川に着いたら魚釣りをして、魚を食べて、そこで一泊する。翌朝、魚を持って森に向かうと、サンとウカが木を切って縛って待っててくれるので、元気だったらまた数本を持ち帰る。ちょっともうだるいよとなったら、交代する。森では獣を狩ったり、果実を採集したりもする。しかし、やっぱあの俺たちに故郷の森が特異的に良かったと見えて、すこぉし分け行ったらもうなんぼでも食えるモンがあるという状況ではなく、常にうっすら物足りない。なかなかしんどいものである。しかし、なんとかかんとか4人で乗れるくらいのイカダができて、あとは2日くらいかけてしこしことオールを削り出して、どうにかこうにか川は渡ったのであるが、まあまあ下流まで流されたし、そこに至るまでに流れが早いところや滝状になっているところもなく、っていうかあったらイカダ作ってても意味なくて、そういう意味では別に泳いで渡っても良かったかもしれないなあと思った。まあいいけど。渡った先でイカダを壊して仮組の小屋を作って眠った。これはかなり落ち着いて良かった。

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