第14話 ラリホーを覚えたい。
探そうぜ。すき焼き素材。世界で一等愉快な奇跡。
ということで、年越し祭り、雨祭り、酒の仕込みと諸々の行事ごとが終わって集落を旅立つことにした。と言っても、「いつでも戻ってきていいよ」という甘い旅立ちであって、何やら深い事情がありそうなサンとウカの感じとはだいぶ違うので気楽っちゃあ気楽である。一点だけちょっと気楽じゃあなさそうなことを言うと、旅立ちの前日にウカに呼び出され、なんか占い師が使うような水晶玉を握らされた。ガラス! あるんかい!! いや別になんかに使うわけではないが、いやでも蔓を切る時の刃物としては使えたのでは? とか思いつつしげしげと見つめていると、
「これが何か知っている?」と聞かれたので、
「知らないけど、水晶玉かな? 占いに使う?」と素直に答えると、この水晶玉が青く輝き出した。なんかマジモンっぽいな。
「占いではなくて、その人が嘘をついているかを見定める道具なんだ。これから私が聞くことに、正直に答えてくれる?」
と言われたので、「はい」と言った。青く光った。ウカはこれまで見たこともないようなシリアスな顔で、
「あなたは本当に……ヒエン?」
と尋ねた。
「うーーん。肉体は多分そうで」青く光った。
「精神については厳密には違う」青く光った。
まあなあ。そりゃあそうですよねえ。「魔法」は「ま」の字も知らないのに、冒険に必要な様々な物事は謎に知っている。この世界に存在しない歌を歌ってこの世界に存在しない文字を使う。肉を食いたがる。記憶喪失の挙動では全然ない。これは……終わったか? 少なくともサンとウカとは、ここで縁切りになるのだろうか?
と俺がごくりとつばを飲み込むと、ウカもまた意を決したように尋ねた。
「あなたは、本当は……ヴァリスの民?」
「知らない……のが……来てしまいました……」青く光った。
それを見たウカは、心底ホッとしたように微笑んだ。え? これでいんすか?
「あのー。もうバレてるみたいだから言うけど」
「ううん。大丈夫。あなたは、私たちを害する気持ちはないのよね?」
「ないけど」青く光った。
「それなら、きっと何か事情があるんでしょう。大丈夫。ユスラ……はわからないけど、サンはもう疑ってないよ。ヴァリスの民は、清聖文字を嫌うんだけど、あなた、ちゃんと『地』の文字が読めていたものね。私も信じたかったんだけど……どうしても、少しだけ、信じられなくて。本当に失礼なことをして、ごめんなさい」
「全然失礼だとは思ってないけど、その」青く光った。
ウカはくすりと笑って、水晶玉を俺の手から取り去った。
「本当に大丈夫。ありがとね」
いやあ。うーん。なんかここが転生してきたよ告白チャンスかと思ったんだけど〜!! まあいいか。ということで、若干釈然としないまま寝て、そしていよいよ旅立ちの時だ。
俺たちが住んでいる集落を含むこの森は、かなり広大で、この森を踏破するのにも相当な時間を要するだろうということだったが、サンとウカの気持ちとしては、もっと色々な世界を見てみたいので、岩塩の取れる険しい山脈を超えて、森じゃあないところに行ってみたいって話だった。俺もそれはかなり賛成で、言うて広いったって森は森で、そこに牛相当の動物がいるとは思えなかった。ホウキと呼ばれる猪っぽい動物や、カトシツアシュクと呼ばれる熊っぽい動物はいたが、牛はもっと多分なんか荒野とかだろうと思う。バッファロー的なやつね。ということで山脈を越える。それ自体は(疲れるけど)いいんだが、山頂付近に明らかな魔力溜まりがある。「あれもマンドラゴラ?」と聞いたら、「ドラゴンだね」ということである。ドラゴンは普通にいるんかい。まあまあ言うて山頂を経由せずに山越をするならば出くわすことはなさそうだが、俺らは俺らでマンドラゴラ魔力強化によって「目立つ」。ドラゴンが俺らを見つけたら飛んでくるかもしれない。流石にドラゴンの鱗を、石の鏃で突破できるとは思えなかったし、
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