第13話 時間に関する願望はありません!!!

 あけましておめでとうございます。こういうめでたい日にはすき焼きが食いたいが、旧世界においては正月ってあんま調理に火を使わないようにしているんだっけね? でもお雑煮はあったよなあ。正確に理解せぬまま死んでしまったものであるなあ。


 一休宗純でもあるまいし、正月から死のことを思っていてもしょうがないので、パーっと祭りを楽しんだ。一応酒の類があるらしい! 年に一度しか飲まないのだそうだ。一年が旧世界よりも長いことを考えると、これはかなり驚異的である。


「そう言えば、最初に言いかけて言い忘れていたけど……『この時間がずっと続けばいいのに』とか、『時が止まればいいのに』とか、『時間が戻って欲しい』というのは、禁呪と言われているんだよ。あの時言って、『垂れ流し』で発動してしまったら大変なことになるから、言わなかったけど」

 サンが言う。

「はあ。なんで禁呪なんだ?」

と言われている。観察できたり、"戻って"きた人はいないから、定かではないけれど」


 その話を飲み込むまで一瞬の間があって、わかった瞬間脳髄が冷えるほどゾッとしった。


 1992年くらいのコロコロコミックかコミックボンボンのホラー読切があって、設定とオチしか覚えてないが、怖過ぎていまだに覚えている。遅刻しかけた小学生が「時間よ止まれ!」と念じると、まじで時間経過が徐々にゆっくりになり、やったぜと思ったのも束の間、「重ねがけ」をしてしまって、結局常時『X-MEN:アポカリプス』のクイックシルヴァーみたいになる。じゃあいいじゃあねえかよというのは早計というもので、もう日常会話もままならないんですよね。これは怖い! で、オチは、なんか喪黒福蔵みたいなやつが事情を説明してくれて、「時間よ止まれ!」と言った時間ちょうどに「時間よ戻れ!」と言えば元に戻るよという。希望が見えた! と思うが、現在の実世界の一秒と、自分自身の体感する時間の日によると、それがだから5年くらいになるって話だったですよね。で、「5年間の1日なんて……」と項垂れるところで話が終わる。怖い〜!


 とここまで思って冷静になると、今ならあんま怖くない説はあるな。5年間とか当時に比すと半年くらいの感覚でしかないように思う。コロナ禍ってもうだから5年前とかになるわけ!? ヒエー。ヒエーたってもうその世界には生きていないわけですけども。


 とにかく、「そう」なったりするわけだ。それは結構困るな。

「『困る』だけじゃあないだろうと思うのは、やっぱり、『戻ってきた』人がいないことにあるんだよね。たとえば、時間を遡ったら、遡ってきた人と出会うこと自体はありそうだろう? それもない。時間が止まったらそのことは認識できなくても、『戻った』時間では何かが起こっていそうなものだけれど、それは観察されたことがない。ただその人が消えるばかりだ。つまり、時間を戻したり時間が止まったりすること自体は、どうやら起こり得るのだけれど、そのことはそれをした人と、それ以外の人の間に大きな隔絶を起こすってことなんだろうね。だから『禁呪』ということになっている。でも、お酒を飲んで酔っ払うと、ついつい『そういうこと』を願ってしまう人もいたりするわけで、これは当然だけれど繰り返せば繰り返すほどそういう人は増えやすくなる。だから、年に1回だけにしておこうっていうことになったのじゃあないかと思うけれど」

 なるほどね。そうかもね。確率的には「やってしまう人」はゼロにはならなくて、その「やってしまう人」自体が飲酒によって増加する。これを重ね合わせると結構現実的な確率になるので、じゃあどうするかというと、生起確率全体を減らすと。多分他にも「禁呪」に相当するようなものがあるのだろう。それこそ、ユスラがやった指向性を持つ局所的落雷ライデインも、通常の魔力量の人にとっては禁呪に近いもので、そのレベルで言えば多分たくさんあるのだろう。と言っても、現在魔力量の上昇によって、ある程度は回避可能そうだが……。でも時魔法は試す気になれないな。かなり本能レベルに根ざした恐怖があるのでね。それよりも今は、ポジティブなことだけを考えよう。久しぶりの酒を楽しもう。本当は日本酒とか飲みたいが、果実酒も悪くないですね。新年はめでたい! この世界も素晴らしい!! あとはすき焼きさえあれば……。と、やはりちょっと引っかかってはしまうのは、これはもう許して欲しい。今年もよろしくお願いします。

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