第12話 獣を狩りたい。

 この世界、植物にすら魔力があるので、当然のことながら獣にも魔力がある。俺自身が体験したように、魔力を持って行使できるようになると魔力を認識することが出来るようになる。ってことは獣も魔力を認識できる。そして、たいていの獣は自分よりでかい魔力は敬遠する傾向にある。マンドラゴラのような例外を除けば、だいたいその生体の体積と魔力量は比例するからだ。


 なので、近接戦闘によって獣を狩るというのは大変に難しい。どんなに風下から近づこうが、匂いを隠そうが、魔力というものはあんまし隠しようがないからだ。これは正直かなり盲点だった。


 対処法を考えた。一つは罠である。かつてのユスラのように、ペット的に飼おうという場合の檻は無力だが、短時間捕獲して、その間に殺し切るのであれば罠は有効である。つっても、金属罠は作れないので、落とし穴を掘るか、デカい木の檻を作るか。俺にもっと知識があれば、丈夫な縄だけである程度なんとかできるのかもしれないが、ちょっとすぐには思いつかない(何を隠そう、「現世」での生活において、「ほどけにくい靴ひもの結び方」の動画を観ても再現ができなかった男だ)。ということで罠は結構キツイなあという感じだ。頑張って作って「魔力」で探知されてなんも引っかからんとなったら悲しすぎるし。


 もう一つは遠距離狙撃であろう。つまり弓だ。幸い、魔法があるので、命中補正はめちゃくちゃ掛けられる。まともな強さを持つ弓と、それなりにとがった鏃、あとは筋力があればなんとかなるはずだ。と思うが、弓を引くってこれ、かなり大変なんすワなあ。麻っぽい植物をなんやかんやして作る紐自体は結構作り方が確立されているので、これを使うのはまあいいとして、まともな距離を飛ばすためにはかなり頑丈な木にビシー弦を張って、そんだけビシー張ったものをキリキリと引かなければならない。近所に弓道場があったが、習っておけば良かったなあ。しんどい。意識的な筋トレが必要かもしれない。でも、マジで筋トレしようと思ったらタンパク質が必要で、そのタンパク質を得るには獣を狩らねばならない。キビチー。


 しかしまあ、頑張ってやりましょう。ということで、デイリーの集落dutyを熟して、岩塩は頻繁に取りに行って、あと魚も釣る。塩を刷り込んで天日で干しつつ、たんぱく源として食う。で、とりあえず自重からトレーニングを始める。すごく良いところは、魔力というのは自身の肉体に作用させる時に一番効能を発揮する。筋トレをする時には、筋トレしている筋肉のことを意識してやると効能が高いというが、それのレべル100みたいなことが起こる。これは単に転生前の肉体より若いことが影響している可能性もあるが、結構すぐ高重量を扱えるようになって単純に楽しい。性差別主義の豚の発言だと思って聞き逃してほしいが、やっぱ男の子だなあと思うのは、サンは大変興味を示していたので、途中から一緒にやった。ウカとユスラはあんまり興味が無さそうだったが、足腰は鍛えておいて損はないと思うので、スクワットくらいは一緒にやった。


 2月も経つ頃には、どうにかこうにか弓も扱えるようになった。本来は弓の上手な引き方を学び、獲物を狙うためにはもっと長い時間が必要なのであろうと思ったが、これはもうエンチャントというか。魔力により補正を信じて打つだけよ! 無量空処手のまま弓を引くのだけちょっと練習を要したが、これで獣も安定して狩れるようになった。磨製石器が鋭さの上限なので、皮をうまく取り外すのは修練が必要であったが、まあまあそこそこには出来る様になった。生活用水として使ってる川に獣の皮を洗いまくるのはどうだろうか? という気もしたので、もう少し山深いところにある支流を見つけて、そこを皮の洗い場として使うことにした。


 そうこうしているうちに、俺の主観としては1年くらい経過した、つまり365回くらい日が沈んでは昇ったように思ったあたりで、「そろそろ年越しの時期だねえ」とユスラが呟いた。ここはずーっとぽかぽか陽気で、暦らしい暦もないので、そういう概念ってないもんだと思っていたが、実はあったらしい。1年の始期が分からないが、俺がこっちに来てから、地球で言えば1年は絶対経過していると思ったが、なんか長いんすね。


 弓矢はそこそこ扱えるようになった。保存食も、背嚢も、天幕も、寝袋も、革製の手袋や靴も作った。実はあのあとマンドラゴラも何個か抜いて粉にしてみたところ、粉末状でも十分魔力が濃密にあって、で粉末にすると長期保存が出来ることが分かったので、とりあえずこの集落にいくつか置いておいて、なんかあったときの治療用にするのと、自分らの魔力回復用に持ちあるくのと、あと、この先旅をして、物々交換をしたくなった時に使えるかなと思って、これも多めに用意した。


 年が明けたら、そろそろ旅立ってもいいんじゃないかと思う。みんなにそう話したら、「それがいいと思う」と賛同が得られた。それじゃあ、年末年始を十分に楽しんで、そしたら出発することにしよう。

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