第11話 旅に出たい。

 すき焼きを食べるために牛相当の動物・獣・魔獣を探すために旅に出たい。の最後のところだけユスラに言ってみたら、「それもいいかもねえ」と言われた。よっしゃと思ってサンとウカに君たちが旅立つ時に着いていきたいと言ったら、これも快諾して貰えた。よし。旅支度をしよう。テントとかってどうやって作るもの?


「テント……は作ったことが無いなあ」

 とサンが言う。はい?

「野宿をする時は、大きな木の下とかで、葉っぱとかを集めて寝ていたよ」

 とのこと。おいおいおいおい。そらこのあたりの森をウロウロするだけならそれでもいいかもしれないが、もっと広くて大きい世界を見て回るのが「冒険」てものじゃあないのかよ!

「そう……なんだろうね。僕たちも、旅立ったばかりで実は良く分かってなかったんだ」

 それはよろしくないですなあ。まず、テントというか、ターフというか、最低限屋根になるようなものは持ち歩きたいよな。あと寝袋もあった方がいいし、下着の類は沢山あるに越したことはない。保存食も必要だろうし、あと他の集落や、あるいは町と呼べるような場所に行ったときに何かしら交換できる素材があるといいだろう。それと、身を守るための武器的なものも一応身に着けてはおきたいね。

「ヒエン……もしかして、記憶が戻ったの?」

 とウカが尋ねるが、ユスラは、

「ううん。兄さんからそんな話を聞いた覚えはないけどなあ」

 と言う。ちょっと興奮しすぎたかもしれんな。


 まあとにかく、かなり準備するものがありそうだから、今日の今すぐ旅に出るぞうおおおおおとはいかないことが分かった。でもまあ、どんなにかぼそくても未来に希望があってやることがあるというのはいいことだ。やるぞうッ。


 まず、多分テントって植物性の布じゃあなくて、動物性の皮だよねえ。ということは、でかめの動物を狩って、その皮を水漏れの無いように縫い合わせ無くてはならないが、どうもこの辺の人たち、果実性の食性で充分事足りるからか、魚くらいは釣ってくることもあるが、獣を狩るということをしない。サンとウカも肉はあんま食わんと言っていたもんなあ。

「あ、でも最初に会ったときに、サンは『かわのよろい』みたいな、わりとしっかりした革製の服を着てただろう。最近ぜんぜん置きっぱなしで着ていないが。あれってどうやって作ったの?」

「それが……これはなんていうか、冒険者になる時の餞別に貰ったもので、作り方は分からないんだよ」

「でも、一旦サンとウカの故郷まで帰れば、誰かは知っているんじゃあないか? 正直ここは慣れている人の意見を聴きたいところではあるんだけど」

「それは……ちょっと、難しいな。僕たちは、もう帰ってこないつもりでふるさとを出たから」


 あれ。もしかして深刻な話? なんか辛い過去、深い目的とかがあった場合、すき焼き旅行と噛み合わなさすぎて行先を共にすることができないかもしれない。それはちょっと寂しいよ。不安だよ。意外に抜けていることが分かったものの、依然この世界で頼りになる男ナンバーワンはサンなのだ。少なくとも最初は一緒に居たい。ということであんまりその辺を深掘りするのはやめたのだった。とにかく、そういうわけで、皮を「なめす」ということについての知見があまりに無さすぎる。流石にやったことないからなあ。くっそー。Youtubeさえあれば! 


 まあでも理屈で考えると、防腐作業をするんだよね? 多分。うーん。まず毛はなるべく綺麗に取り去るものとして。一旦煮沸するか? 


 煮沸するべき │ するが、最初にではない │ すべきでない


 でアキネイター魔法をやってみたところ、「すべきでない」と出た。

 そうかあ。縮むのかな。なんかでコーティングするんかな。消毒するなら塩とかか?

「部分的にそう」

 その後も色々と試したところ、多分最適手順ではないようだが、流水で洗う、毛を剃る、塩漬けにする、乾燥させる、また水に晒して塩を抜く、油を塗って揉む、乾燥させる……というあたりで形になりそうではあった。脱毛クリームって多分アルカリ性だよな、で、草木灰ってアルカリ性だと思うので、毛を剃る時に灰に漬けるのは? 「有効」ということで、まあ一旦これで行くか。

 油は油実の木がある。水車とか? で効率的に絞れればそれが一番いんだが、まあ、手動でコツコツ集めるしかないね。これはもともと集落のdutyで定期的に参加していたので、それやりながら自分らの分も追加で採取して集めれば良い。

 塩は岩塩坑があって、これも時々dutyで取りに行ってるのだが、それに加えて何回か行けば足りるであろう。運ぶのが大変なだけで、取るのは正直全然難易度が低い。本当は荷車があればいいのだろうが、道が整備されてなさすぎるので、かなり精度の良い荷車を作らないと手間がかかるばかりであろう。ついでに塩漬けの肉も作って保存食にするとよいだろう。

 ということで、その肉を食えそうで皮の取りでがあるでかめの獣を狩りたいところだが、大きな問題にぶち当たった。それは俺たちが皆、マンドラゴラを食ってしまったばかりに、あまりに異様な魔力量を持っていることであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る