第8話 マンドラゴラを安全に掘りたい。

 すき焼きが食いたい。そのために魔力が欲しい。そのためにマンドラゴラを安全に掘り起こしたい。


 一旦、魔力訓練をサボってこないだ倒れてたところに行こうと思ったが、俺自身は道がわからんので、サンについてきてもらって(ていうか先導してもらって)、森の奥に向かうと、いやー分かるわ。これは。群生ですわ。群生地から多分1 kmくらい離れたところから、うっすらと霧のように魔力が満ちているのがわかる。それの一番濃いのがだから、俺が倒れていたところなのであろう。そりゃあ、サンとウカも、あの辺向かってみようかって思うよね。なるほどね〜。


 で、マンドラゴラゾーンに辿り着いて、しげしげと観察してみると、やっぱこれ基本的には人参なんだと思うんですね。人参ぽい細かく枝分かれした葉が青々と生い茂っている感じ。この根本のあたりに紐をかけて、犬に引かせれば、多分葉っぱは千切れず抜けると思うが、まず、犬がいない。動物っぽいものはいるが、基本的に動物もまた魔力を持っており、動物を捕まえようとするのはかなり危ない。なんとかかんとか捕まえても、俺らがここから離れるまで動物がおとなしくしている保証は全くない。うーーーん。どうしたもんかいのう。


 植物の蔓を使って紐とかは作れるだろう。めっちゃ長い紐を結んで、それを遠くから引っ張る。いや、でも、安全のためにはそれこそ1 kmくらい離れたくて、1 kmの紐を編むっていったら大掛かりになりすぎる。うーん。


「雨……って降るんだっけ?」

 と尋ねると、サンは、

「降る……というか、多分、集落で定期的に『雨乞い祭り』をやると思うよ。雨が降らないと植物は育たないけど、ずーっと雨でもじめじめしちゃうからね。やると決めたらザンザカ降らせて、みんなでお祭りにするんだよ」

 ははあ。そうか。みんなだから普段はうっすらと「明日は天気になるといいなあ」と思ってるので、基本的に悪天候って滅多にこないが、雨は雨で効能があるので、みんなで力を合わせて「雨雨降れ降れ魔法」を使うと。なるほどね。好都合では?

「あともう一個、木を切ったりするのって、凄い嫌がられるとかはない?」

「え? いやあ。薪を使ってるだろう」

 そういやそうか。ということで、てこの原理を使った自動マンドラゴラ回収機を作ろうと考えた。


 要するにカタパルトである。シーソー上に木を組み、十分長い作用点の端に紐でマンドラゴラの葉を結ぶ(「葉に触っただけでマンドラゴラが叫びだすことはない」は確認した)。力点の方には、コップ状のものを取り付けておく。これを設置した後、『雨乞い祭り』を執り行う。すると、多分このコップのところに雨が溜まって、十分な重さになると作用点が動いて、マンドラゴラが抜ける。その叫び声が少なくともこの集落まで届かないことは、ヒエンくんが我が身を持って実証しているので、その点は安心である。あとはふら〜っと近寄る人がいるとまずいが、サンとウカによれば、「自分で言うのもなんだけど、『冒険者』を目指そうっていう変わり者はほとんどいないから、多分大丈夫だと思うよ」ということで、まあそれは信じることにした。念の為、集落の皆にはまたマンドラゴラを抜くので『雨乞い』の日には森に立ち入らないよう伝えれば良い。


 でしかしこれが言うは易く行うは難いを地で行く感じで、とにかく微調整が難しい。自然薯みたいなのが生えているので、それで練習してみるが、まあ自然薯ってそもそも掘るのは難しいが、にしたってとにかくうまくいかない!!


 ユスラの有り余る魔力で、空気中の水を凝結してもらって水汲みの手間を少し減らすなどはしたが、それでも微調整が効かない。金属がねーんだよ。ノコギリとかせめてナイフとかが欲しいよ。石斧で日がな1日どころか2日とか3日とかかけてよ〜うやく木を切って、またゴリゴリゴリゴリちょうどいい長さにして、1個目の試作機作るの数えてないけど1ヶ月くらいかかったのではなかろうか? 流石にそんだけやると手慣れてきて、今は、1日に1個くらいは作れるようになった。まあ量産してもしゃあないのだが、とにかく、だいたい良さそうな引き抜き機を作って、そんでさあ、当然理解はしていたか、数時間かかる道のりを、これを持って運ばなきゃあならんのね。二度とやりたくないね。実際はこの後何度かやることになったわけだが。

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