第7話 妹を超えたい。

 すき焼きが食べたい。


 とはいえ、まず肉食傾向がないからそこからか〜という感じはある。でとにかく何をするにもまずは「魔法」の習得からだ。限時点では存在しないすき焼きを願いすぎるあまり魔力がだだ垂れ流しになって魔力欠乏症になったら目も当てられぬ。


 ということで、翌日からは、起きて家や周辺を履き清めた後、周辺の森に入って果実などの採集を行なってそれを食い、泉で水浴びをして身を清めて、寝る。というルーチンの合間合間に「魔法」の練習をひたすら行なった。サンとウカも当たり前のように同居し、この練習に付き合ってくれた。正直ありがたい。そんである日、ふと、魔力が「見える」ようになった。


 いや正確に言うと別にこれまでも実は「見えて」いたのだと思う。ただ認識できてなかったっていうか。青と黒だと思ってたワンピースが、本当は白と金だったことがわかったというか。一度白と金に見えると、もう二度と青と黒には見えないっていうか。なんかそんな感じだ。とにかく「見えた」ことを伝えると、サンとウカは、「これで魔力が垂れ流しになることはよっぽどのことがない限りはないであろう」という見解を伝えてくれて、俺も一安心だった。で、こうして「見えて」見ると、サンの方がウカより二回りくらい「魔力」量が多いように思える。俺自身を俯瞰して見ることができないので、確証はないが、俺はウカと同じくらいに思えるので、じゃあ別に男女差ってわけではなさそうだ。単に全般的な個体差なのかな? と思って帰宅したらもうひっくり返った。横転した。顔がなくなった。というのは、もう、家の中をみっしりと満たすくらい、ユスラの魔力量が迸っていたからである。


 それでやっと得心が行った。ユスラはすっかり元気になったと思っていたが、あんまり外に出ようとしなくて、まだちょっと魔力足りないのかな? くらいに思ってたが、違ったわ。異常すぎるからだ。で、ユスラに異常な魔力があって、サンに二回りくらい大きな魔力があって、それでウカと俺が同じくらい。ということはつまり。


「これマンドラゴラの効能なわけ?」

 俺がそう言うと、やっとわかったかという感じで、みんな深々と頷いた。

 確かに、こんだけ異常な魔力を纏っている人間と、それを認識できてない愚かな兄を放置して、それじゃあ冒険の途中なんで、またね、バイ! とはいかんわな。本当にありがたいことであった。


 現実問題、正味のところ、これってどうなの? というと、別になんか身体的に不具合とかはないと思うという感じだった。しかし、まあ、異様ではある。そんでもうあのマンドラゴラ騒ぎから1週間くらいは経ってるわけで、っていうことは、まあ多分これ体内に蓄えられているという感じではないね? むかーーーーーしむかし、SugarSyncというクラウドストレージがあって、これ、黎明期だからだと思うんだが、一人紹介したら500 MBくらい恒久的に貰えたんですよ。それで、当時、インフルエンサーという言葉もなかったと思うが、インフルエンサー的に友達に広め、blogにも書いたら、なんか50 GBくらいずーっと使えるよみたいになったことがあった。当時なんて、256 MBのUSBメモリが1万円近くするみたいな時代だったので、いやPCとかHDDとかにそもそもそんなに保存しきれませんけど、みたいに思ったものだが、今だと普通よね。でしかし、SugarSyncはその鷹揚な報酬形態が足を引っ張ったのか、サービス終了してしまって、その時はマジで困ったね。

 閑話休題。つまり、そういう感じなのかと思った。魔力というのは身体のどこかに蓄えられるのではなく、クラウド的に保存されるものなのであろうと思った。ってことは、使わないとこれ無くならないわけだね? と言って無理に使うものでもないから、「こう」なってると。まあ、これを無駄遣いするのも勿体無いから、ユスラがどうするかについては、もうちょっと考えて決めた方が良いと思うが、しかし、こんだけ膨大な魔力量があれば、かなりのラッキーを期待できるのではなかろうか。すなわち、マンドラゴラをもう一本くらいなんとかして見つけてきて食えれば、これは俺のすき焼きロードの明るく輝く道標になるのではなかろうか?


「今は余裕があるので、もっと安全な方法でマンドラゴラを掘り起こして、魔力量を増やしたいように思う。まだあの森の中にマンドラゴラって生えていると思う?」

 と聞くと、サンとウカは顔を見合わせ、こう答えた。

「まだ生えているどころか……ヒエンが倒れていたあのあたりに、多分マンドラゴラは群生していたと思うよ?」



 

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