第4話 運を天に頼りたい。

 すき焼きは今どうでもいい。いやどうでも良くはないが、でもまあ、人命の方が当然優先である(と言いながら俺自身はすき焼きによって人命を喪ったのだが)。一旦外に出て、木の枝を拾って、丸を描いて(大体)三等分した。俺はケーキだって三等分できる男だ。


「『魔法』の使い方も忘れちゃったので、申し訳ないけどサンかウカに協力して欲しい。ここに、俺だけがわかる文字で『マンドラゴラは塗り薬だ』『マンドラゴラは飲み薬だ』『それ以外だ』と書いた。この枝を渡すから、『魔法』で、マンドラゴラの使い方を教えて欲しいと念じながら、枝を倒してみてくれないか。でも、この方法がめっちゃ危ないんだったら教えて欲しい」

 俺がそう言うと、

「多分……危ないということはないと思う。僕がやるよ」

 とサンが枝を持ってくれた。マジで頼りになる男だと思う。


 サンは、右手をかなり複雑に動かして、「マンドラゴラの使い方として正しい方に倒れておくれ」と言う。枝は、「マンドラゴラは飲み薬だ」に倒れた。俺はそれを二人に伝えて、「今、『魔力』の消費量は?」と尋ねた。

「ほとんどない……と思う。魔力石がないから正確には分からないけれど、体の感覚としては全然だね。食事の前の魔法いただきマジックくらい……って、これも忘れているか。とにかく、全く大丈夫だよ。じゃあ、飲み方を調べようか」

「いや、そういうことなら、『魔法』として作動するかを確かめたい。もう2回やってみていいか? 目をつぶって、少しぐるぐる回ってから、もう一度倒してみてくれないか」

「なるほどね。うん……『マンドラゴラの使い方として正しい方に倒れておくれ』」


 果たして、2回とも「飲み薬」に倒れた。まあやっぱMP回復ったら『エルフののみぐすり』ですわね。よし。いける。信じよう。この調子だ。


 マンドラゴラは「皮を剥かず」「生のまま」「すりおろして」「飲む」といいらしい。そのままでは飲みにくい場合は、「水」よりは「蜂蜜とか甘いもの」で伸ばすと良いらしい。見た目といい、つまりキャロットジュースを作ると思えばいんだね。ちょっと困ったのはすりおろし機がなかったことだが、刃物は流石にあったので、細かく刻んで攪拌し、なんか甘いものないかと聞いて回ったらメイプルシロップがあって、とりあえず譲ってもらって、とにかくマンドラゴラ・ジュースが完成した。


 念の為というのと、なんだかだ連続の魔法行使で魔力を失ってしまったサンに、一匙分を飲んでもらうと、「渋い……けど、これはすごい! お腹がぽかぽか暖かくなって、魔力が回復している感じが分かるよ! これならきっと大丈夫だ!」とお墨付きをもらう。ありがとうありがとう。


 ということで自宅(?)に取って返してユスラにこのドリンクを飲ませたところ、三口目くらいで起き上がれるようになって、目も爛々と開いて、残りのドリンクを飲み干した挙句、匙でコップをこすっては、わずかな汁を舐めとるほどであった。


「し、渋くないの?」とサンが尋ねるが、ユスラは「ぜんぜんそんなことないです。美味しいです」と、舌を伸ばしてコップから最後の一滴が垂れてくるのを待っていた。俺はちょっとわかるような気がした。ポカリスエットって、普段飲むにはちょっと不気味な甘さというか、少なくとも週に1回は必ず飲みたい! とは思わないが、風邪引いた時に飲むとネクタル天上の飲物かと思うくらい美味いもんな。多分そういうことだったんだと思う。

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