第10話:作戦会議_1
「……って感じで、なかなか最近寝つけなくて……」
「そっか。やっぱり気になる時はとことん考えちゃうよねぇ……」
「そうなの。同窓会から帰ってきたときはすごく冷たかったのに、朝になったら急に優しくなってて。なにかあったんじゃないかって、嫌でも勘ぐっちゃうよね」
私はサトコと居酒屋に来ていた。約束していた金曜日。サトコからOKの返事が届き、私の体調も良くなったため、この日に飲みに行くことで決定した。着いて早々我慢できなくなった私は、あお君の『浮気かもしれない』ことをサトコに相談した。もともとはサトコから送られてきた写真がもとでわかったことだから、サトコもうんうんと頷きながらよく聞いてくれた。
まだ信じられない部分もあるし、私が見つけた証拠になりそうなものは、まだ『あお君が誰と浮気をしているのか』を教えてはくれない。つまりまだ【証拠】ではなく【証拠っぽい物】止まりだった。
同窓会の日まで、私の気持ちは離婚へ傾いていた。嘘を吐いて家に帰ってこない、分担していた家事もしない、私の扱いが酷くなる。その状態では、とても夫婦関係を維持できないと思ったからだ。子どもがそろそろほしいと私は思っていたが、浮気じゃなかったとしても、この調子では戦力として期待できない。浮気だったとしたら、もっと露骨で頻繁になる可能性がある。私にはとてもその状態を許容できなかった。
「今はどうなの?」
サトコは私のぶんの飲み物も頼みながら、まるで現状を整理するかのように質問をしてくれる。
「今は……ちょっと悩んでる」
「どうして?」
「……優しいから?」
「仮初だったらどうすんのよ」
「それはそうだけど……。でもさ。やっぱり、このまま今の状態が続くんじゃないかって期待しちゃうんだよね。……めちゃくちゃ嫌いになったわけじゃないし、ここまで一緒にいた気持ちもあるし……」
「このあとも浮気調査は続けるの?」
「うん。結局あの写真が誰なのかもわかってないし、気になる行動もいっぱいあったから。浮気なのか浮気じゃないのか、そこはハッキリさせたいって思うの」
「浮気だったら……離婚? まだわかんないけどさ。それによって身の振りかたも考えないといけないのかな? って、私は思うからさ」
「……と思ってる。誠心誠意謝ってくれたら、再構築も考えるかもしれないけどさ。再構築したって、私はずっとあお君のこと疑い続けながら生活することになるだろうし。ちょっと前のあお君思い出すと『もう済んだことだろ?』って言われそうなんだよね」
――そうなのだ。
もし浮気だったら。たとえ再構築したとしても、私はずっと忘れないしあお君のこれからの行動を【浮気】に紐づけてしまうだろう。そして疑われることにあお君が嫌気を指して、ギクシャクした関係になってしまう。そんなところまで想像していた。きっと、私の性格から再構築は向いていない。そもそも、あお君自身も再構築を望んでいないかもしれない。浮気相手との再婚を希望するかもしれないし、いっそのこと、独身になって遊びまくるかもしれない。複数の女性と遊びたいのなら、彼女を作ったり結婚するべきではない。
……こんなことを考えてしまうということは、私はもうあお君のことを根本では信用していないのかもしれない。どこまでも進む妄想に、我ながら呆れてしまう。
「気持ちは変わるかもしれないもんね? なんというか『離婚してやるんだから!』って思ってた方が、気持ち楽じゃない? まだ子どももいないし、二十代だし。最悪、このまますんなり離婚ってなったとしても、再構築より悩まなくて済むと思うよ?」
「それはね、確かにそうなんだよね」
「今決めなきゃいけないことでもないんだけどね。どうしたらシオの気持ちが楽になるかなって思うと、私はそっちかなって思っちゃうんだよね。……さ、浮気暴くつもりで時系列追っていこ?」
「うん」
「えーっと、まずは私が蒼飛さんと知らない女性が一緒にいるのを見て、写真を撮ってシオに送りました、と」
「仲良い近さだったから、浮気を私は疑いました」
「うんうん。で、蒼飛さんのほうも、怪しい動きがあったんだもんね?」
「帰りが遅いのは残業のせいだと思ってたんだけど……。実際は怪しいなって。出張もね。急に泊まりの出張出てきたなって。これはそんなに多いわけじゃないんだけど。現地のお土産も買ってきてくれてるから、ちゃんとそこに行ってるんだろうし」
本当は、この件に関しては、ハッキリ【クロ】であると確信を持っていた。怪しい、のではなく、残業はしていないし出張と言った日には女性と泊りがけで出かけている。……と、家で見つけた証拠からはそう読み取っている。だが、第三者に言わせればまだ確定ではないかもしれないし、万が一違ったら申し訳ないから今は黙っておくことにした。
「なるほどね? じゃあ、怪しいだけでまだわからないけど、この残業の日がもし女性に会ってたとしたら、結構な頻度になる? あー、出張も含めて、かな」
「なる。でも、一時間くらい残業して帰ってくる日もあったし、全部が全部浮気ってわけじゃなさそうなんだよね」
「うーん、確かに一時間だと、せいぜいお茶するかご飯食べるくらいかな? どこから浮気と捉えるかで変わってくるかもしれないけど」
「……肉体関係とか恋愛感情のある女性とふたりきりで食事は嫌だな」
「だよねぇ。だけど今は、あくまでも怪しいだけだもんね。他にはあった? 蒼飛さんの態度以外で」
「んー……。態度、に入るのかな? 休日も、ふらっと出ていって、全然帰ってこなかったり」
「『〇〇に行ってくる』みたいなこと言わないの?」
「言わないよ。言ったとしても『ちょっと出かけてくる』とか、そんな感じ。……それに、ちょっとって言いながら、時間で見たら全然ちょっとじゃないし」
「近所のスーパーとかコンビニじゃないってこと?」
「何時間も経ってから帰ってくるから」
「それはちょっとじゃないね」
「あとは既読無視が増えたかな、kiccaの。同窓会のときはほぼ二日間連絡くれなかったし。既読は吐くんだけどね。私が送ったことに対しては一切無視で帰る時だけ連絡入れたり。で、そこからまた全然帰ってこなかったり。……思い出したら、なんか腹立ってきちゃった」
「あはは。別に怒っても良いんじゃない? ちなみにさ、それ指摘すると怒ったりする?」
「する! すっごく不機嫌になるし、言葉も乱暴になるし。……怪しさ満点って感じ」
「わかりやすっ! ……もしかしたら、別れたがってるのかなぁ、蒼飛さん」
「……え?」
「あっ……ごめん! 気を悪くしないで、なんか、露骨だなって思っただけだから」
「う、うん」
サトコの言葉にドキリと心臓が大きく脈打った。――そうか、あお君自身が私と別れたいと思っていて、もしかしたらわかりやすく態度で示しているのかもしれない。だが、そんなことをしてはモラハラだDVだと、あお君に不利になったりしないのだろうか。私が言わなければ不利にならないかもしれないが、黙って離婚するのは癪に障る。私が我慢する前提なのだろうか。
でもそれならば、同窓会が終わってから今まで、私に優しくする必要なないはずだ。別れたいのなら私に冷たくして、夫婦関係が破綻していると思わせたほうが話も進むのではと考えてしまう。期待を持たせたらいけないのだ。
「尻尾を完全につかむには、まだまだ難しそうだね」
「一応、怪しいな、って思った行動と課かメモしてるんだけど……」
「そこから拾っていくのが良さそうだね。もう少し溜まったら。いっぱいあったら、一貫性とかなんか見つかりそうじゃん?」
「うん……」
「……あ! 私のほうもご報告!」
「え? なになに?」
「仕事で蒼飛さんの会社の入ってるビルに行ったとき、あの写真の女性見かけたって言ったじゃん? 覚えてる?」
「覚えてるよ! ビックリしたもん」
「だよね。で、タイミング良かったなって思ったんだけど。一昨日さ、また仕事で行く機会が会ったんだよね」
「そ、それで……?」
私は思わず、ゴクリと唾を飲んだ。
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