春の終わり、夏の始まり

第48話

ーーー『なけない おおかみ』


みどりにみどりをかさねた

ふかいふかい森のおく


いっぴきの 小さなおおかみが いました


おおかみは 森のどうぶつたちを

みて おもうのです


きのみをかじる こりすにも

そらをとぶ おおわしにも

おおきなからだの くまにも

みんな おなじかたちの なかまがいる


どうして ぼくには いないんだろう


ちいさなおおかみは

ふかい森のおくで

じぶんいがいのおおかみを

いちども みたことがありませんでした




おおかみは なかまをさがしに

いくことにしました

なかまをみつけたら いっしょにかけっこをしよう



あるいてあるいて 雲の山をこえて

おおかみは ふるえる1ぴきのやぎにであいます


ぼくのなかまを知らないかい


やぎがこたえます

いたいいたい もうやめて


やぎのあしは まっかにそまっています

たいへん 血がでているよう

これをつかって


おおかみは じぶんのマフラーをやぶいて 血をながすやぎにそっとさしだしました




あるいてあるいて いろとりどりの花びらをこえて

おおかみは ちぢこまる1ぴきのうさぎにであいます


ぼくのなかまをしらないかい


うさぎがこたえます

もうたくさんだ あっちへいけ


うさぎのあしは あおくはれています

ほねがおれてるかもしれないよう

これをつかって


おおかみは 自分のつえを

うさぎににそっとさしだしました

うさぎのくろめが お月さまのように

まんまるです




あるいてあるいて はくぎんのせつげんをこえて

おおかみは うめく1ぴきのふくろうにであいます


ぼくのなかまを知らないかい


ふくろうがこたえます

これいじょう きずつけやさせないぞ


ふくろうのわきばらに しろくとがったなにかが ふかく くいこんでいます

もしかしたら 取れるかもしれないよう

これを使って


おおかみは 自分の牙をぽきりと折ると

ふくろうににそっとさしだしました

ホーホー ふくろうのなきごえが せつげんに ひびきました



あるいてあるいて いきぐるしくくらやまをわけいり

ついに おおかみは じぶんとそっくりの おおきな黒いおおかみにであいます


ああ やっと みつけた

あなたが ぼくの なかま でしょう


おおきなくろいおおかみは うなります

おまえなんて しらない

おれさまとそっくりだなんて

ふゆかいなやつだ


おおきな黒いおおかみの

おおきなするどいきばが

ちいさなおおかみののどに

ぶつりと ささりました



ちいさなおおかみは ひっしに

いずみまで にげました

のどがひどくいたみます

ちいさなおおかみは もう

なかまをよぼうと 鳴くことはできないのです

かけっこをするなかまはいないと

泣くこともできないのです


なかまは いない

ああ ぼくは ひとりぼっち だ


かなしくて

こころがちぎれて

とまらない血より あついなみだが

あふれます



ちいさなおおかみの ちいさな命が消えようとしたとき


ふわり じくじくいたむのどをおおう

やわらかな布

ずんと 丸まったせなかを支える

おおきなぼう

ふわふわと つめたい自分のからだを あたためる おおきなつばさ


おおかみの かすかな めに

やぎと うさぎと ふくろうがみえます

おおかみの なかまはいたのです

姿かたちはちがうけど

こまったときに 助けてくれる

たいせつな なかま


みんな

自分たちをたすけてくれた

ちいさなおおかみを みすてたりしないのです




たすけられたちいさなおおかみは

すっかりげんきになりました


黒いおおかみが入ってこられないほど

小さなもりのなかで

やぎや うさぎや ふくろうと

とんだりはねたりかけっこしたり


そらは とべないけれど

それはそれで とてもすてきなこと


ちいさなおおかみは

こころやさしいなかまと いっしょに

いつまでも なかよく くらしました


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