放課後
お手をどうぞ
第27話
「…はぁ?文化祭のラストでダンスやってる学校なんかあんの?」
久しぶりに会ったらまた背が伸びてるなーなんてぼんやり考えてたあたしは、その低い声音に驚いて隣を歩く幼馴染を見やる。
「うん、宝良高校の伝統なんだって文化祭フィナーレのペアダンス…って何で元(はじめ)が嫌そうな顔すんのよ、もー!!」
そういう古臭い伝統があるとこ意外と気に入ってるんだから、楽しみな気分に水を差さないで欲しい。
「そうそうそれで!宝高には代々受け継がれてる伝統があってね!」
「どうせ、片思いの相手とそのダンスでペアになれたらその恋が実るとか、そんなんだろ」
「ちょっ…!人の話し取らないでよ!…確かに、そうだけど。」
つまんね、と唇を歪めて呟く元はなんだか機嫌が悪い。
もとが整ってるから、こういうときさらに怖く見えるんだよね。
形の良い眉の間に皺ー不機嫌
いつもより上がった切れ長の眦ー不機嫌
ハーフと間違えられることも多い薄茶色の瞳の鋭さー不機嫌
遠くて聞き取れないが黒い悪態をついてるであろう唇ー不機嫌
あぁっ!どう見ても頼みごとできる雰囲気じゃない〜!!
いや、やるんだアタシ!ここでやらねばいつやる⁈
久しぶりに会った目の前の幼馴染があたしの悩みを解決してくれるはず!
「ときに…元クン?その…ダンスについて、ちょーーーっとお願いあるんだけど…みたいな?」
気まずさを誤魔化すために作り笑いでえへ♡っと小首をかしげて隣の元を見上げる。
別々の高校に入ってからぐんぐん伸びてる身長の差でこっちを見下ろす元。
あたしの幼馴染は背が高くなってますますカッコ良くなったなぁ。
「元、お願い!」
パンッと顔の前で両手を合わせて。
昔から変わらない「困ったときの元頼み」。
元は口元を覆うと指の隙間から重く長いため息をつく。
「……はぁ……なに?」
キターーーー!!!
「そのダンス、体育の評価にもなってて。ほら、あたし音感ゼロじゃない?」
「都は、マイナス100だろ」
「マイナスってなによ!音感にマイナスなんてあるわけないでしょ!!!
…で、そんなこんなで、授業で全然踊れなくて。今日先生に「小峰さんダンスの単位取れなければ補習よー♪マラソンよー♪」って笑顔で言われちゃって。
…
…
…
わーん、このままじゃ絶対体育の単位落としちゃうよーーー!!
友達みんな「頑張れ♪」って言うばっかりで練習付き合ってくれないし、男性パート踊れる人簡単に見つからないし、寒い外でマラソンの補習なんてイヤーーーー!クリスマスなくなっちゃうーーーー!
元助けてっ!ダンスの練習付き合ってーーーーーーーー!」
マイナス評価に一瞬腹が立ったものの、話してるうちに最後は元の腕に泣き顔ですがりつくあたし。
「はぁ………ダンス踊れなくて、体育の単位落としそうなの?」
ブンブン首を縦に振るあたし。
「で、俺に練習付き合ってほしい、と」
ブンブン。
「じゃあ、付き合う代わりに俺の言うこと何でも一つ聞けよ?」
ブンブン。
…ん?
「よし、決まり」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って!」
なんか、どさくさに紛れてすごい約束した気がする。
「なんでもって?」
「なんでもだろ」
雰囲気一変、元の目が生き生きと輝いている。
鼻歌まで出る始末。
なんだか不安しかないが、背に腹は変えられない。
「でもでも、あたしが出来ることにしてね!?あと、おごりならファミレスまでだからね!」
「はいはい、分かってるって。都が絶対出来る「お願い」にするから」
ひらひらと手を振って必死なあたしをあっさりいなす。
「で、いつやる?練習。試験はいつ?」
「試験は再来週の月曜日なんだ。あたしは学祭準備週間で部活休みだから、元のバイト入ってない放課後にお願いしたいんだけど…」
ふーんと呟きながら携帯を弄る元。
「今日は木曜だよな…店の定休日が水曜だから、今日と、来週の水曜と、金曜日も早番だから付き合える」
「今日⁈」
思わず聞き返し、元の冷たい視線に身も心も凍りつきそうになる。
「引き受けるからには完璧な仕上がりにしてやろうっていう俺の好意に、なんか文句あんのか?」
「…イエ、メッソウモアリマセン」
グッバイあたしの寛ぎタイム。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます