午後
妬けて妬けて
第20話
午後の陽射しは眩しく、お昼休みにお弁当を食べたあたし宮原希に急速に睡魔が襲う。
しかも授業は『念仏子守唄』として学生中に恐れられている与野先生の日本史だ。
うぅっ…ヤバイ…与野先生の日本史前回赤点だったのに…ノートが枕に見える…
脳内で天使と悪魔が血が血で洗う凄まじい争いを繰り広げたのち、勝ちを収めた悪魔に誘われノートの端に顔を埋めようとしたそのとき。
ガラッ
突然教室のドアが開く音が耳を貫いた。
教室の気怠げな雰囲気が一気に覚める。
音もなくするりと小鳥遊くんが入ってくる。
遅刻に対する罪悪感もみんなの注目を集めている羞恥心も全く感じられない横顔。
小鳥遊くん、薫さんのところ行ってたんだなぁ。
午前中の体育で突然倒れた薫さんをお姫様抱っこして保健室に駆け込んだ小鳥遊くん。
その一部始終を見ていた我らクラスメイトは、小鳥遊くんの机が午後のチャイムが鳴っても空っぽなのも、静寂を破ったのも暗黙のうちに了解していたのだ。
教室の中を納得感がさざ波のように広がっていく。
小鳥遊くん、あのとき怖い顔してたな。
倒れた薫さんに駆け寄り、焦りと恐怖に顔を歪め、歯を食いしばって、血の気のない薫さんの横顔を見つめていた。
あたしは誰かにあんな顔できない。
「…小鳥遊くん、ちゃんと授業に戻れるよう…昼休みを、とって…ください…」
「はい、申し訳ありませんでした。」
与野先生のポツポツした小言にも動じず、真っ直ぐ前を向いて謝罪する小鳥遊くん。
与野先生の抑揚のない説明が再開して、いつもの授業風景に戻っていく。
あたしは彼を動かす熱情に羨望とほんの少しの嫌悪感を胸に感じ、慌てて白いノートに向かった。
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