第21話
「ってことがあってさー」
その日の放課後、あたしは生徒会室の端で椅子の背もたれに体重をかけてゆらゆら揺らしながら同じ書記担当の璃子に事の顛末を話していた。
書記の仕事なぞそっちのけだ。
「へぇー!そうだったんですね…小鳥遊くん全然動じないなんてすごいですぅ!」
璃子の丸い眼鏡の奥にある大きな瞳がさらに大きく広がっている。
ふっふっふ、そうでしょうとも!
璃子の素直な感嘆に気を良くして、さらに続きを話そうと口を開きかけたところに、
「その話なら一階まで流れてますよ?」
「っ、うわぁおっ?」
突然後ろから現れた後輩にバランスを崩し椅子から落ちそうになるあたし。
「あー翼くん、書庫整理お疲れ様ですぅ。あんなにたくさんあったのにあっという間でしたですね♪」
「いえ、最後の分類とファイル綴じだけだったので。
璃子先輩もお疲れ様です」
璃子の賞賛もあっさりかわし、有能な後輩はあたしを見下ろしてクスリと笑う。
「ちゃんと座ってないと危ないですよ、希センパイ」
「うっ、うるさい!
突然割り込んでくる翼が悪い!」
彼に浅からぬ感情を抱いている今、ただでさえそばにいると落ち着かないのにっ!!!
カッコ悪いところを見られ顔が赤くなる。
気まずくて、先輩風を吹かせて追い払おうとするあたしより早く、璃子がニコニコしながら翼に会話を振った。
「一階の一年生階にまで広がってるってすごいですね〜!
でも皆さん授業だったですよね?
どうして一年生までこんなに早く広がったんでしょう?」
「小鳥遊先輩、でしたっけ?「優しいしかっこいい!」って一年生の中にもファンがいるみたいで。
ちょうど窓際に座ってたファンの女の子が一部始終を見て、お昼休みに大声で友達に泣きついてるのをみんなが聞いてて…ということみたいです。」
璃子の質問に淀みなく答える翼。
あたしにはつい数時間前の情報を完璧に把握している翼の諜報能力の方が謎だわ…。
「ひょわ〜、小鳥遊くんのファンは一年生にまで広がってるんですね。やはり、あの整った外見ゆえでしょうか?」
確かに、特に部活動も生徒会もやってない小鳥遊くんが学年を超えて知られてるのは驚きだ。
「確かに、イケメンだもんね…」
まっすぐ前を向いて与野先生に謝る小鳥遊くんの横顔を思い出しながら小さく呟いた。
「……そういえば璃子先輩、書庫の資料で確認してほしいことがあるようで、会長が呼んでましたよ」
突然話題が切り替わり、翼がにっこり笑って璃子に話しかけた。
「へっ?はわわっ!それはいけません!
翼くん、希ちゃん、ちょっと失礼します!!!」
何故か顔を赤らめて慌ててぱたぱた走っていく璃子。
急にしんとする生徒会室。
あれ。
しまったーーー!!!翼と二人っきりだぁーーー!!
璃子ーーーカムバァアーーーック!!!
と心の中で叫んでも後の祭り。
沈黙にソワソワしてると、
「璃子先輩、ご愁傷様です」
ボソッと翼が呟いた。
その言葉の意味が分からなくて、
「何よそれ?」
と問うと、
「いや、他人の性癖には口を挟まないのが僕の主義だから。
それより希」
ギクッ
ヤバい、翼の口調が幼馴染モードになってる。
ここで説明しよう!
実は実は、あたしと翼は昔っからの腐れ縁、幼馴染なのだ!
「希が通ってるから」という理由でこの宝良高校まで追いかけてきて、果ては生徒会まで立候補する(学年の満場一致できまったとか)翼が分からなくて。
今年の入学式で再会したときに「一年下なんだから、ちゃんと先輩で呼ぶように!」と変な方向に口走ったのがきっかけで、翼は、学校で他の人がいるときは「希センパイ」、誰もいないときは「希」と使い分けをするようになった。
璃子や生徒会長がいるときは聞き分けのいい優秀な後輩なんだけど、ひとたび二人っきりになると、化けの皮がベロンとはがれる。
昔はただの生意気な男の子だったのに、最近身長も伸びて妙な色気とエロで近づくもんだから、男性経験の乏しいあたしは押されまくりで…。
変に意識してしまい、翼といると落ち着かない!!!
「な、なに?」
虚勢を張って見つめるけど、イスに座ってるあたしと立っている翼とじゃ、ポジショ二ングに難ありだ。
しかも、なんだかすごく近いーーー?
内心焦りまくりのあたしのことなど気にもせず、翼は身をかがめ、あたしの耳元に唇を寄せる。
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