第19話

「薫、そろそろ行こう?」

眩しい青空の下。

ぼんやりする薫に手を差し伸ばす柾。

慌てて右手でお弁当箱の入った手提げ袋を掴むと左手を伸ばす。



「ちっちゃい手」

「柾が大きくなりすぎー」

握った手の力強さに悔し紛れに反論すると、

「大きくなるって約束したからね」

と空いてる手でこちらの手提げ袋を取り上げながら笑う柾。

誰と?と見上げたけど、柾は目を細めて教えてくれなかった。


時折見せる、やるせない瞳。


初めて見たのは、病院のベッドの上で。

幼い頃酷い発作に倒れた自分を助けてくれた柾は、意識を取り戻した自分を今みたいに見つめていたっけ。


目の前の幼馴染がぐんと成長したような気がして、何年も眠っていたのかと焦ったのを覚えている。

幼い少年の瞳がほのかに赤く、何かを背負わせてしまった事実だけがはっきりと滲んでいた。

消毒液の匂い。

取り返しのつかない、苦い思い出。




ごめんね柾。

もう少し、もう少しだけ。

こっちを向いていて。


必ず、貴方にさよならするから。


〈Scene end〉

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