Nothing can stop me but...
第14話
お腹も膨れた長閑な昼休み。
「お前ら幼馴染のくせに昼休みまで一緒とかずりーぞ!」と意味不明に騒ぐ友人達を後に、ここでハルと二人で昼休みを過ごすのが最近の日課で。
別棟である教科棟の屋上に自分達以外の学生の姿はない。
ぼんやりしていると、向かいに座るハルがデザートだと何かを投げた。
放物線を描いたのは小さな飴玉。
黄色いフィルムに包まれたそれは馴染みのある苺味ではなくレモン味らしい。
「ひひひ。
初恋の味、ってね?」
悪戯っぽく笑うハル。
ばーか。
俺は身を乗り出すとハルの手首を勢いよく引き寄せる。
薄茶色の大きな瞳に映る自分の影。
突然すぎると目もつぶれないんだな、とやけに冷静に観察している自分がいた。
「それ言うなら、『初キスの味』だ」
唇が離れ、
ぽかんと間抜け顔でこちらを見つめるハル。
よく分かったろ?唇の端を上げると舌を出す。
ころりと三角形の飴。
「〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
吃驚、理解、羞恥、赤面の順で首元まで真っ赤に染まるハル。
ありゃ、可愛い反応。
「なに?もう一回?」
んなわけねーだろ!と右ストレート。
だが、へろへろの拳はヒットするわけもなく俺はひょいとかわす。
「初キッスを実地で体験できたご感想は?」
「ノーカン!!
こういうことばっかりして、
いっっっつも人のことおちょくって…
認めない!!」
ハルは赤面した顔を隠しながらきっぱり否定する。
つまんねーの。
奥歯に力を入れるとぱきんと砕かれるレモン味。
初めてが欲しかった、なんて言えっこない。
「まぁぶっちゃけ俺たちの初キスなんてハルの兄貴に奪われてるらしいからなー」
「青(あお)兄に??
な、なにそれ⁈」
俺の呟きにぎょっとするハル。
ハルは3歳年上の兄貴に頭が上がらないのだ。
「あれ?知らねーの?
ハルのおばさんが『二人が一歳のころかしらー?青のマイブームが大好きな人にちゅーすることで。
青ってば哲くんと春にちゅっちゅしまくりで、もーほんとその様子ってば可愛いかったのよ〜♪』
って証言してる」
「う、うそぉ………」
「昔から青兄に愛されてんな俺たち♡」
がっくりと項垂れるハル。
同じ目に遭った俺だが、当時の戯れはハルと間接キスできたということで自分の中で処理できている。
青兄のことも好きだしな。
「〜〜〜〜っ!
もうこの話はお終い!
ほら哲!予鈴鳴るよ!」
無理やり話を終わらせると勢いよく立ち上がるハル。
いやだ。
まだ離れたくない。
「えぇーーーー俺ダルーい。
5限サーボーるーーーーーーー」
と、ついさっきまで腰を下ろしていたアスファルトにべったりしがみつく。
「はぁ?何言ってんの⁈
ほら行くよ??」
躊躇いもなく出された手。
俺にさっき何されたか分かってんのかコイツは。
信頼の証のような、
無関心の結果のような、
どちらとも取れるハルの手のひら。
幼馴染の枠からはみ出すこともできないのに、ハルの優しさにつけこんでちょっかい出して勝手に傷付いて。
それでもこの手を取ってしまうのは、きっと。
「俺ってば欲しがり屋さんってことですかねー」
と独りごちる。
わざと掴めない距離で手を伸ばす俺に身を乗り出しきゅっと握りしめるハルの手は、あったかった。
抜けるような秋晴れ。
校内へと続く扉を先に歩くハルの背中。
なぁハル。
この気持ちを止めてよ。
《scene end》
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