yah-boo!
第15話
なにやってんだあいつら…?
昼休み。
体育館裏のブリックパック自販機の前。
人通りの少ない柱と柱の影に慣れ親しんだ二人の姿を見つけ、通り過ぎかけた足を止めて思わず目で追う。
自販機に向かって仁王立ちしている背の高いのと低いの。
チビが頬を膨らませながら最上段のサンプルを指差し、のっぽはすでに一つパックを手にしてご満悦だ。
ははん。
最近昼休み明けに勝ったの負けたのとやけに喧しいと思っていたけど、原因はこれか。
お金を入れて、自販機のボタンが点灯した瞬間自分が飲みたいパックのボタンを押す。自分が飲みたいパックが出てきた方が勝ち。
たぶんそんな他愛もない賭け事。
大方、既にのっぽが勝ったものの負けず嫌いのチビがもうひと勝負挑んでいるのだろう。
再戦状を受け取ってもらい、嬉しそうにぐりぐり腕を回すチビ。
思わず吹き出しそうになり慌てて飲み込む。
チビの元気の良さは校内ピカイチだ。
ゴム鞠のような瞬発力のチビ。
背の高さとリーチで優位なのっぽ。
こりゃ、どうなるかな。
のっぽが大きな身体を屈ませるモーションに、チビの目にすっと強い光が宿る。
硬貨を入れるのがのっぽなのは、せめてものハンデだろうか。
位置について。
硬貨投入。
自販機に硬貨が滑り下りた一拍あと。
電子的なスタート音。
瞬間、チビの身体がぐんと伸びて。
スライドの長い腕が後ろから迫る。
コンマ何秒のタッチの差。
ボタンに触れた無骨な大きな手に重なる小さな手のひら。
ピピッ
『っ!!!』
『……俺の、勝ち』
『またぁ?!』
チビが顔をしかめながら己に覆い被さるのっぽを見上げて。
交錯する2人の眼差し。
大きなの手のひらが返り、細い指先を捕らえようとする。
ぴくっと震える小さな身体。
『ーーーー…は、』
ガコンッ!
不意に響く落下音。
無粋なブリックパックに、絡んでいた二人の視線がぷつんと解ける。
誰かがゴールシュートを決めた歓声が校庭から響いた。
…わぉ。
いつのまにか止めていた息をそっと吐く。
止まっていた世界と真っ当な昼休みの喧騒の落差が心臓に悪い。
『ほら用は済んだろ、行くよ?』
『え⁈だってまだ買えてな…』
『勝負に夢中で目測誤った。はい』
とん、とチビの頭に降ってくる四角いパック。自販機最上段のぐんぐんヨーグル。
チビが最近ハマってるやつだ。
きっと。
くるりと背を向け教室へと急ぐのっぽからは見えないんだろう。
チビは首まで朱に染まっている。
必死に平常心を装いのっぽを追いかけるチビは気付かないんだろう。
手のひらをにぎにぎするヤツの頬は赤い。
はぁ。
「ほんとバカップル…」
あれで付き合ってないんだから、この世の『幼馴染』カテゴリは随分懐が深いらしい。
アホらし、とその場を離れようとしたとき、顔を上げたのっぽ&チビと目が合った。
見られた!!??
同じ言葉が二人の顔にありありと浮かぶ。
その分かりやすさに内心大爆笑。
ばーか。俺、大好物は最後まで取っとく性質なの。
わざわざ目を丸くして驚いて見せ、
「哲!ハル!
二人とも『今までどこ行ってたんだよ?』」
探したんだからな、と声を掛ける。
途端に安堵する二人のちょろさといったら。
「マエケン聞いて!また負けたぁー」
「ハルにはハンデやったろ?」
「ぬう……そ、そうだけど。
次は必ず哲に勝ぁつ!!」
はいはい、と騒ぐ二人をいなし教室へと促す。
両片思いの友人を見つめる自分の眼差しはどうしたって生温かくなる。
とはいえ、なにニヤニヤしてんだ気持ち悪ぃ、と呆れ顔の哲にムカついたから、泣きつく振りしてハルを抱きしめた。
あ、哲の顔分かりやす過ぎ。
「うぉいっ!!!」
「あっかんべぇー♪
ハルぅ〜哲が怖えーよぉー」
なにやってんの二人とも、とクスクス笑うハルを挟みながら思う。
うん、やっぱ面白いからもう少しこのまま放っておこう。
俺はそう決めると人知れずちろり、と舌を出した。
〈Scene end〉
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