1-E
第11話
「ちょっ、ちょっ、なに?
えっ、やめっ‼︎ああ〜⁉︎」
じっとりと重たい梅雨の合間をぬってやっと表舞台に立てた太陽は、今までの鬱憤を晴らすかのように1-Eの教室に降り注いでいる。
うだるような暑さの中、ひとときの涼を求めて購買のアイスを親友と一緒に食べてて。
そして、教室内に響き渡るくらいの大きな、情けない声を出した。
「酷い‼︎なんであたしが食べてたアイス勝手に取るの⁇返して‼︎」
突然教室に入ってくるなり、あたしの食べかけのアイスを取り上げると、その高身長を生かしてあたしが絶対に手が届かないところまで持ち上げる幼馴染。
その彼の胸元で手を伸ばしバタバタしている情けないわたし。
「あー、このアイスいますっげえ食べたいなー
購買にはもうないかもなー美味しそうだなー」
何それ⁉︎どんだけ棒読みよ!しかもあたしのこと怒ってる‼︎眉間にシワ寄ってるし、睨んでるもん‼︎
「ちょ、笑ってないで2人とも何とか言ってよ‼︎
まだ購買にたくさんあったよねこのアイス‼︎」
後ろでくつくつ笑っている彼の親友を振り返り、援護を求める。
彼の親友は、何が可笑しいのかお腹を抱え大笑いしながら、あたしではなく、隣で遠い目をしているあたしの親友に話しかけた。
「ぶくくくく…いやーさすがにコレはまずいでしょ。
あぁ、一つで二人分になるアイスだったんだ、そりゃお得だものね。この暑い中仲良く分けて食べたくなっちゃうよねー」
そう、あたしたちが食べていたのは、一つで二人分になる二本の棒が挿さった棒アイスだった。
お得‼︎しかも、さっぱりカルピス味。
あたしの親友はまだ無駄なジャンプを繰り返すあたしを尻目に彼の親友と目を合わせ、
「…相変わらず昭和の父みたいな過保護っぷりね。
本人がコレがいいって頑なに言うもんだから、その気持ちを尊重したんだけど…。
いやいや、「やっぱり飛んで来るのかなー」とかワクワクしながら待ってたなんて、そんなことちっともないってば。うんうん。」
なんて、笑顔で頷きながら意味不明なことを言っている。
「…勘弁しろよ。全く…」
深くため息をついた幼馴染は、何かの袋をあたしのおでこに押し付けると、高々と上げていたあたしの棒アイスをそのまま一気に食べてしまう。
「はぁぁぁ〜〜〜。
あたしのアイス……ん??」
さよならしてしまったアイスに涙目になりながら、押し付けられた袋を見ると、棒アイスと迷いに迷って買わなかった、ちょっとリッチなシューアイスだった。
「これ…⁈」
「お詫び。」
「いいの?やったぁ♫」
天から降ってきたラッキーにウキウキしながら、シューアイスを頬張る。
「ん!美味しい〜♪」
コロッと機嫌を直し、笑顔でシューアイスを食べる様子を見て、幼馴染は安心したように息をついた。
「いい場面だったねえ。」
「本当ねー。」
声を揃えて、親友2人は頷いた。
二人とも、何言ってんだろ…?
そして、あたしの親友は若干不満げだ。
「確かに、棒アイス頬張ってるとことか、溶けてきたのを下からがんばって舌ですくってるとことか、もったいなくて他の男子には見せたくないわよねー。
しかもカルピス味。
でも、あたしも同じもの食べてるんだけど。腹立つー。」
「まぁまぁ、そこは姉さんが上手に食べてるから。
逆に突き抜けてて爽やかというか、こいつがあまりにも甘やかしてるというか、そんなとこでしょ。」
あたしの親友の不満げな呟きに、苦笑して返す彼の親友。
何で怒ってんのかな⁇
「てか、分かってんなら食わすな。心臓に悪い。」
上から聞こえる幼馴染の声にも疲れの色が滲んでる。
「あたしたちが何を食べようとしたちの勝手ですー」
「お前…廊下の奴らも足止めて見てたんだぞ⁉︎」
「まぁまぁ2人とも。愛が爆発しすぎだから!」
幼馴染まで加わり、でもやっぱり意味不明な会話をしている。
身長の高い三人が並ぶとやっぱり迫力があるなぁ〜。
シューアイスを食べながら見上げると、大好きな人達が並んでいて、にまにましてしまう。
「どしたの?そんな笑顔で。
シューアイス美味しい?」
あたしの視線に気づいた親友が、ん?と聞いてくる。
「ううん。あたしの大好きな人達が並んでて嬉しいなーって。」
えへへ、と照れ笑いすると、
「あたしも、大好きよ。」
と大きな瞳を柔らかく和ませて微笑みハグしてくれる親友。
相変わらず良い匂いするなぁ〜。
抱きしめられた背中越しに、口元を覆った幼馴染が見えた。
眉を潜めて…困ってる?
最近、幼馴染はこんな顔を時々する。
彼を困らせたいわけじゃないんだけどな。
ああ。また、やっちゃった。
次は気をつけなきゃ。
そんなことを思ってると、熱烈なハグから解放されたあたしの頭をぽむぽむと撫でて、
「よかったな。」
と幼馴染が笑う。
笑っててほしいから、
「うん」
と返して笑顔を繕った。
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