第5話
一時間後、昼休みを告げるチャイムに押されるように美術室を出ると、スカートのポケットが小さく震えた。
携帯を取り出して液晶画面をタップすると、理くんからのメッセージがぴょこんと飛び出してきたから、思わず笑ってしまう。
『さっき美術だったろ?』
シンプルな文字は、理くんそのものだ。
『うん、目合ったね。
あと、あんなことしてからかうのやめてね?』
あんなこと、とはもちろんグーパーの合図のことだ。
びっくりして絵の具を落としたよと、続けようとすると、
『ばぁか、ちげーよ』
とすぐに返ってきた。
違うってどういう意味だろう?
『?』を打ち込むと、すぐに既読になったものの暫く返事が返ってこない。
ますます訳が分からない。
ちらちら携帯を見ながら専門科棟からクラス手前の廊下まで帰ってきて、やっと浮き出たメッセージ。
『からかってない』
『昼休みの分の、予約』
クラスに入りかけた足が止まる。
艶やかな黒髪に隠れた耳まで熱い。
訝しげな顔をしながら固まったあたしの脇をクラスメイトが通り過ぎていく。
うわぁぁ…!
もぉーーーーー!もぉーーーーー!!
理くんてば…っ!
強面彼氏の殺し文句に悶絶する結。
離れているのにどれだけドキドキさせるのだろう。
ひ、昼休み分の予約、って…ううん!一緒にご飯食べるだけだよね!そうだよね?!
グーパーの意味を推し測り、思わず浮かんだ二人っきりの甘い雰囲気に鼓動は更に早まる。
軽くパニックになり、前髪を触ったり耳にかけたり汗ばむおでこを抑えたり挙動不審な結に、追い討ちをかける文字が浮かび上がる。
『屋上、はよ来い』
「……ーーーーーっ!!」
ぷしゅぅ、と顔面発火する結。
理にときめかされすぎて死んでしまうかもしれない。
半端ない疲労感を抱えながら、結はギクシャクと足を動かす。
友人に、昼食は別に食べることを伝えるためにーーーーー。
《Scene end》
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